産業小話:量産効果とムーアの法則

 4/1ころから太陽電池やら風車における量産効果とムーアの法則で……という人が多かったので、各所(口頭含む)で答えていた内容を簡単にまとめる。

 量産効果は、原材料から製品を作るまでのコストを下げることで起き、典型的には機械化して機械の能力をめいっぱい働かせるときに起きる。このため、量産効果は「原材料から製品を作るまで」の工場の中で起きることだけに適用され、原材料費や工事費、加工のためのエネルギーコストには反映されない。よって、そもそも原材料をたくさん使う重厚長大なものは量産効果があまり表れず、原材料費の比率の小さい軽薄短小な産業ではよく効果が出る。重厚長大な場合には単に投資サイクルが遅くなる影響もあるので、仮に量産効果が見込める場合でも進展速度はそのぶん遅くなる。

 比較的モノが大きい場合の量産効果については、日本で大工に発注した住宅と、建売の住宅と、アメリカのツーバイフォー系のプレハブ(小屋ではない)など、それぞれの住宅の上物の値段を比較されるとよい(半額以下にはなる)。

 ムーアの法則は情報を物理現象で扱う際に、スケールを微細化する過程でよくみられる。半導体だけでなくHDDの容量増加でも似たようなことが起きていることから分かるだろう。例えれば、昔は伝書鳩を100羽飛ばしてやっと2~5羽到着していたが、今は訓練したので伝書鳩1羽で確実に着くようになりました、コスト1/100です、という話の伝書鳩を電子や磁気区画に置き換えた話がムーアの法則である。

 一方で、エネルギーを含む物質量を確保することは漸進的な進歩の速度は遅い。三頭引きの馬車の馬の一頭を鍛えたら一頭で引けるようになりました、ということにはなかなかならない。物質量はどうにもならないので、量産効果も原材料費までで頭打ちになるし、太陽電池の集積度を上げたからと言って無からエネルギーが取り出せるわけでもない。エネルギーに関しては熱力学の第一・第二法則、ベッツ限界、カルノーサイクルのような物性限界もある。エネルギーを扱うものが進歩する場合には、漸進的進歩が比較的早期に打ち止めになった後、新しい物性の発見や技術的フレームワークの見直しなどによって劇的に進歩することが多い。

 工事費についても専用工具の開発でコストが落ちることがあり、たとえばトンネル掘りはシールドマシンの開発で一気にコストが落ちた。太陽光の効率やコストが急激に落ちるとしたら、そういう現象があると私は予想する。

 「ある産業で量産効果が生じるか?」については、身も蓋もないいい方をすれば、その産業の中の状態に依存しており、生じる場合もあれば生じない場合もある。進歩の速度の問題については上述の縛りが大きいが、ボトルネックがどこにあるかにもよるので、実はエネルギーや質量以外の部分に問題がありました、ということであれば話は一気に進む。最終的には、中の人に聞くのがよいだろう。

(2011/04/13)