夫婦別姓をめぐる世論と「争点」にならない現実
夫婦別姓に関する各種調査結果
選択的夫婦別姓制度は、すでに長年にわたり政治のアジェンダとして一定の存在感を持ってきたテーマであり、2025年に入っても多くの報道機関や調査機関によって世論調査が実施されている。
例えば朝日新聞の調査では、賛成63%に対して反対29%という結果で、共同通信の調査では賛成59.4%、反対32.7%という数字となっている。これらは賛成か反対かの二択形式であるが、このタイプの調査ではおおむね「賛成6割、反対3割」という構図が繰り返し示されている。
「分からない」などの選択肢を含めた調査、例えば連合の調査では、選択的夫婦別姓への賛成が46.8%、反対が26.6%となっており、態度未定層が相当数存在することがうかがえる。
さらに設問の立て方を変え、「現状維持」「旧姓の通称使用拡大」「選択的夫婦別姓の導入」という三択形式にすると、様相はやや異なる。読売新聞の調査や政府の調査では、現状維持が約25%、旧姓使用の拡大が約50%、選択的夫婦別姓の導入が約25%といった分布に落ち着くことが多い。日本財団の意識調査も三択式だったが、こちらは夫婦別姓賛成は47.6%、現状維持と旧姓使用拡大がともに20%程度という結果であった。
女性の「別姓希望」は少数派 ― 当事者性の低さ
日本財団が2025年8月に実施した17~19歳1,000人への調査では、「将来結婚する時の姓」についての回答が特に示唆的である。この中で女性の回答は以下の通りである。
- 相手の姓に合わせたい:45.2%
- 相手に合わせてもらいたい:2.9%(約10人/341人)
- 別の姓を名乗れるならそうしたい:1.8%(約6人/341人)
- 相手と相談して決めたい:32.3%
自分の姓を残したいと明言している女性は合計しても4.7%にとどまる。これは「相手の姓に合わせたい」と答えた男性の9.2%の半分しかいないという結果である。もちろん現行制度下では別姓が不可能であるため、「現実的な選択」を反映している可能性はある。しかし他の調査を見ても、「制度が変われば自分は別姓を選ぶ」と明確に答える層が爆発的に増える兆候は見られない。抽象的な制度賛否ではなく、「自分は別姓を選ぶか」という具体的設問になると、途端に数字は低調になるのである。
属性による差の小ささ
もう一つの特徴は、賛否における属性差が小さい点である。夫婦別姓は一般に男女の利害対立の問題と捉えられがちである。しかし各種調査の男女別集計を見ると、男女の賛否差はおおむね10ポイント程度に収まっていることが多い。読売新聞の調査は与党支持者と野党支持者でも分けて集計しているが、これも大差はなく、野党支持者側で積極賛成が10ポイント程度高い、という違いが見られるにすぎない。つまり、性別でも支持政党でも、意見が真っ二つに割れるような争点にはなっていないのである。
比して、例えば改憲や原発再稼働では支持政党が支持政策のラベルになっているというくらいきれいに分かれ、同じ政党を支持していても自分たちと意見を異にするなら喧嘩が始まったり仲間割れしてもおかしくないくらい揉める。比して、夫婦別姓は異なる意見の持ち主が同じ政党を支持していても揉めない程度にはあまり気にされていない話題だということである。
アジェンダとしての優先度 ― 「争点」になっても重視度は低い
では、この問題は有権者にとってどの程度重要なのか。日本財団の調査では、投票時に夫婦別姓をどの程度重視したかという質問をしており、
- 「最も重視した」:5.3%
- 「他の争点と同程度」:31.3%
- 「考慮しなかった」:50.2%
- 「公約になっていることを知らなかった」:13.2%
という結果であった。この重視度についても男女差はほとんどなく、「最も重視した」ではむしろ男性の方がやや多いという結果である。しかもこの設問は、賛成だから重視したのか、反対だから重視したのかを区別していない。強固な賛成派と強固な反対派を合わせて約5%、「まあまあ重視した」層を含めても4割弱という意味である。
そして多くの調査で反対を明言する人が2~3割存在することを踏まえると、夫婦別姓をアジェンダとして重視するこの4割弱のうち75%程度は《夫婦別姓反対の立場として》重視している可能性が高く、「夫婦別姓に賛成だからこの候補に投票する」という動機を持つ人は1割程度にとどまるのではないかと推測される。これは夫婦別姓を強く希望する女性の割合や、男女・与野党での意見の差が高くて10ポイントであることと整合的だろう。全体像としては、
- 強く賛成:高く見積もっても1割程度
- 強く反対:2~3割
- どちらでもよい、やるならやればよいという消極的賛成:6~7割
という構図が浮かび上がる。なおかつ、強く賛成と強く反対の層は、おそらく夫婦別姓がアジェンダになろうがなるまいが投票行動を変えないイデオロギー優先の人であろうと推測される。「消極的賛成」層は、選挙において本問題を最重要アジェンダとは見なさない。結局、夫婦別姓の賛否が投票行動を左右することはほとんどないと考えられる。
総合すると、夫婦別姓問題に強い当事者性を感じている人は1割に満たず、推測するにせいぜい5%程度で、なおかつ今夫婦別姓の賛否で投票を決めていると自認する人はかなり党派性が強いと思われ、投票行動を変える争点としては、かなり弱いと言わざるを得ない。属性による賛否差の小ささを見ても、実態以上にイデオロギー先行で語られている印象は否めない。この点についてXで話した際、もっとも辛辣だった反応は次のようなものであった――「要するに、本気で関心を持つ人が少ないため真剣な反論も少なく、言いっぱなしができる。だからイデオロギー優先の人ほど好んでこの話題を取り上げるのだろう」。
もちろん私は、夫婦別姓を政治的アジェンダにすること自体を否定するものではない。別姓でなければ本当に困る人が存在するのも事実であろうし、夫婦別姓を認めることは選択肢を広げるだけで、誰かに直接の不利益を与えるものではない、という主張に反対するつもりもない(これを書いた後で「選べるがゆえに揉めごとの種になる」という反論はきたが)。いずれにしても、それが投票行動を大きく変えるような主要アジェンダになるかと問われれば、かなり疑問であるというのが正直なところである。当事者である女性ですらその他のアジェンダやイデオロギーを優先する程度のものにすぎないのだから。
私見:包括的な「新しい婚姻制度」という発想
最後に私の考えを述べておく。現行の結婚制度とは別に、フランスのPACSのような新制度を用意し、
- 夫婦別姓
- 同性婚
- 共働きを前提としそれを促進する会計分離、第3号被保険者の廃止と夫婦間扶養の廃止
- 完全な共同親権
- 北欧のように離婚のハードルを下げる
をワンセットにした「令和の対等婚」を創設すればよいのではないかと考えている。これは単なる夫婦別姓よりも包括的に選択肢を増やすことにつながる。国際的な基準にもより強く沿うことになり、反対派の論点をかわしやすくなるため、実現可能性も高まるはずである。このような包括パッケージこそが、現実的かつ建設的な落としどころではないか。それが現時点での私のベストな提案である(これを書いた後、結婚制度を複雑化させて選択肢を増やすのは混乱を招くだけで反対とか言われたが)
(2026/02/03)