「すべての差別に反対する」の喉元に刺さる「ピンクウォッシング極右」の増長
最近、「すべての差別に反対する」という標語に対していろいろ議論があるようだ。この標語は、一番大枠の原則として異を唱えるべきものではないだろう。誰かの差別を容認する理由はない。だが、題目を掲げたとて「すべての差別がない状態」が現実的に定義困難なこともある。例えば、LGBTQ+や女性の権利が、宗教的規範に基づくイスラム保守の主張とぶつかるとき、「すべての差別に反対」と唱えるだけでは、どちらを優先するのかという問いに答えられない。
これはただのまぜっかえしではない。欧州で極右が政権をうかがうまでに伸長した理由は、移民、経済、治安などさまざまだが、この問いを避け続けてきたことも一因である。イスラム保守の主張に対して沈黙する、あるいは批判を「差別」として退ける態度が、LGBTQ+の権利を掲げてムスリム排斥を正当化する側に、主張の場を与えてしまった感は否めないところである。本稿は、この問題を、キリスト教保守とイスラム保守の比較から考える。
「LGBTQを守る」という極右の登場
欧州の急進右派の一部は、かつての反動的な露骨なホモフォビアから距離を置き、LGBTQの権利を「西欧社会が守ってきた自由」として語るようになった。フランスの国民連合(RN)、オランダのウィルダース率いる自由党(PVV)、ドイツのAfDには、程度の差こそあれこの傾向が見られる。
フランスでは2015年のシャルリー・エブド襲撃事件を経て、極右がゲイの有権者を取り込みつつあることが「ピンクウォッシング」との批判とともに報じられていた1。ドイツではAfD共同党首のワイデルが、レズビアン当事者としてイスラムの反同性愛に不安を感じていると語ることで「後進的なムスリムという他者」の物語を担っている2。ただしAfDは同性婚の廃止を掲げる法案を早くから提出しており、連邦政府のクィア担当官はその政策が性的少数者の権利に敵対的だと批判している3。オランダでは、ウィルダースが女性解放や同性愛者の権利を「オランダ的価値」と位置づけ、イスラムと対置する戦略をとってきたと分析されている4。これらに共通する基本構図は、「われわれの社会では女性や同性愛者の権利が保障されている。それを脅かしているのがイスラム主義であり移民社会だ」というものである5。
実際、欧州ではゲイの有権者の一部が排外主義的な政党を支持する動向が報告されている6。ドイツのゲイ向けデーティングアプリ「Romeo」が2025年の総選挙前に実施した調査では、回答者の約28%がAfDを選ぶと答え、最多となった7(ただし、この調査は特定のプラットフォーム利用者に限られた非代表的なものであり、専門家は、この数字をそのままドイツのゲイ男性全体の投票意向とみなすことに慎重である2)。
それでも、当事者の一部が極右へ流れ、さらに中道寄りの市民にも「人権を守るためなら移民制限もやむを得ない」と受け入れる心理的余地が生まれたことで、これらの極右政党は、それぞれの国で政権をうかがうところまで成長した。
極右政党が本来反動的でLGBTQの権利を否定していたことは確かであり、この転向は「LGBTQを盾にイスラムを非難すると反論されにくい」「LGBTQ否定と反移民のどちらが支持されやすいかと言えば、反移民」といった事情から成立したものである。
類型化、概念の整理
ここで、これらの動向について名づけられた概念を整理する。
一つは Puar(2007)の提唱した「ホモナショナリズム」である。これは、LGBTQ+の権利を支持する姿勢が国家の進歩性や文明性を示す指標として利用され、さらには西洋諸国による非西洋社会への差別的視線や介入を、「我々はより道徳的かつ先進的な価値観を体現しているのだから、それらの社会を啓蒙・改善することは正当である」という形で正当化する論理を指す。揶揄的に言えば「ポリコレを利用したお国自慢」とも表現できるが、性的マイノリティの包摂がナショナリズムや安全保障政策と結び付くことで、新たな排除や階層化が生み出される点にある。この問題系が2007年の時点で理論化されていたことは注目に値する。8。
「ピンクウォッシング」は、LGBTQへの親和的な姿勢を演出することで、別の政策や人権侵害から目をそらさせる行為を主に指す。この語が広く知られるようになったのは、2011年にサラ・シュルマンがニューヨーク・タイムズ紙上で、イスラエルの対パレスチナ政策への批判をそらす広報戦略としてこの語を用いたことによる。ただし、彼女はその論考の冒頭で、西欧における反移民・反ムスリムの政治勢力による白人ゲイの取り込みにも言及している。なお、この概念をイスラエルに当てはめることの妥当性については論争がある9。
両者は重なり合うが同義ではなく、前者は言説の構造を、後者は演出の機能を捉えた語である。
「LGBTQを守る」から「女性を守る」へ
LGBTQの権利は、当事者でない大多数の人々にとっては抽象的な人権問題にとどまりやすい。これに対して、「女性が性犯罪に遭うかもしれない」「娘が夜道を歩くのが心配だ」という不安は、多くの有権者にとって直接的な問題として届きうる。
欧州の極右は、移民・難民、とりわけ若い男性の流入と女性への暴力を結びつけ、「移民政策を変えることが女性を守ることだ」と訴えてきた。女性の不安を排外主義に接続するこの手法は「フェモナショナリズム」と呼ばれる。社会学者サラ・ファリスは、フランス、イタリア、オランダを対象に、ムスリム男性を女性の抑圧者かつ西洋社会への脅威として描き、ムスリム女性や移民女性を「救うべき存在」として強調することで、排外的な言説と政策が正当化されてきたことを論じた1011。
加えて、こういった言説にはそれなりに「裏打ちするニュース」が付いて回ったことは、その広がりに一役買っている。象徴的なのは、2015年から翌年にかけての大晦日にドイツのケルンで起きた集団的な性的暴行事件である。容疑者の多くが北アフリカ・アラブ系と報じられ12、事件直後の報道では、容疑者31人のうち18人が庇護申請者だったと伝えられた13。事件後には1210件の告訴がなされ、そのうち511件が性的暴行に関するものだったとされる14。この事件はAfD躍進の契機のひとつと整理されており、10年後の回顧でも、極右がこの事件を「再移住」の正当化の象徴として用い続けてきた経緯が指摘されている15。こういった事件を経て、「女性の安全・安心」という現実の政治課題が、移民排除の政治へ接続されるようになった。
なお、人口構成の事実も確認しておきたい。欧州連合庇護機関(EUAA)の統計によれば、2024年にEU+で庇護を申請した人の約3分の2は男性で、18〜34歳の男性が最大の層(約37%)を占めた16。2025年についても、男性が約3分の2、18〜34歳の男性が申請全体の約34%で最大層という傾向は変わらない17。犯罪との関係についても、ドイツの犯罪学者ペーファイファーらが連邦家族省の委託で行ったニーダーザクセン州の研究がある。それによれば、2015〜16年に警察が認知した暴力犯罪は10.4%増加し、その増加分の92.1%が「難民」に帰属された18。しかし同じ研究は、犯罪に及びやすい年齢層である若い男性という人口構成の要因を強調し、出身国や滞在の見通しによって大きな差があること(滞在の見込みが薄い北アフリカ出身者に加害が集中する一方、アフガニスタンやシリアの出身者は相対的に少ない)、被害者の3分の1が難民自身であることも示している19。この研究は一つの州の警察統計に基づくもので、性犯罪に限った分析でもない。したがって、ここで示されているのは「近年の庇護申請者には若い男性が多い」ことと、「特定の条件下で若い男性の暴力が増える」ことにとどまる。「移民全体が若い男性ばかりである」という命題も、「ムスリム男性は女性にとって危険である」という命題も、これらのデータからは導かれない。三つは別々の命題であり、混同してはならない。
なぜこの言説は女性に届きうるのか
極右政党が「女性を守る」という標語を打ち出したことで、これらの政党は実際に女性に支持されるようになった。フランスでは、2024年の欧州議会選挙でRNへの女性票が33%と男性の30%を上回り、いわゆる「極右ジェンダー・ギャップ」が逆転したと報じられた20。CNRSの解説によれば、フランスでは2012年以降、このギャップはほぼ消失している21。RFIは、女性票の増加を治安や反イスラム言説と結びつけて分析しており22、フランスの専門家も、女性の安全への不安とRNの「守る」というメッセージが支持拡大の要因だと説明している23。日本語の解説でも、フェモナショナリズムと女性の安全をめぐる言説が支持の拡大に寄与したと整理されている24。
欧州17か国のデータを用いた分析によれば、女性は男性と比べて、自国民優先主義、権威主義、民主主義への不満といった態度の水準に大きな差はない。差があるのは、そうした態度が極右への投票に結びつく強さであり、女性の側で弱い。これは元々存在していた「極右ジェンダー・ギャップ」が自然発生したことを示唆する25。
さらに逆に言うと、極右が近年、党のイメージの穏健化と「守る」というメッセージによって女性票への障壁を下げてきた、と読むこともできる。ただしこれは先行研究の知見からの筆者の解釈であり、個々の国での因果関係を実証したものではない。
夜道、公共交通機関、繁華街、子どもの安全など、女性が日常生活でリスク感じやすいことは事実であり、性犯罪への不安そのものは政治的に取り上げられる問題である。そこへ「あなたの安全を守る」という政治メッセージが極右から差し込まれてきた。これに対して、うまく不安に寄り添った回答ができないと、極右の伸長を止めることは難しくなる。そして寄り添うべきは「不安」であり統計的事実でそれが解消するかどうかは不確定である、ということも留意すべきだろう。
「実際に問題がある」ことと「集団全体を排除する」ことは別である
移民・ムスリム社会の内部に、女性差別、強制結婚、名誉を理由とする統制、ホモフォビアなどが存在することは否定できない。ただしその中に、イスラム共通であるものと、一部の文化基盤に根差した部族的なものが混在していることは留意が必要である。
例えば「名誉殺人」、すなわち一族の名誉を汚したとして身内で行われる制裁は、パキスタンやアフガニスタンを中心に見られる一方、マレーシアやインドネシアなど東南アジアのイスラム圏では見られない。イタリアでは、強制結婚を拒んだパキスタン系の女性が殺害される事件が起きており、報道は文化的な家父長制と宗教とを混同しないよう注意を促している26。英国議会の資料では、2024〜25年に名誉に関連する犯罪が約2,949件記録され、強制結婚ユニットが支援した229件のうち女性が71%、未成年が35%を占めた27。欧州のムスリムの間で同性愛への忌避が強いことも調査で示されており、それは敬虔度や出身国の規範と関連する一方で、同じ調査は、クィアなムスリムによる運動が存在することも指摘している28。
統計的な傾向が存在することと、個人をその属性だけで扱うことも別問題である。オランダ・ドイツ・英国の名誉殺人や強制結婚をめぐる政策論議を分析した研究も、ジェンダー平等の言説が、移民の包摂にも排除にも使われうることを示している29。
誰を守る女性保護なのか
「移民男性から女性を守る」という言説では、非移民側が被害者として位置づけられることが多い。しかし現実には、移民自身もまた性的少数者排除や性暴力の被害者になる。
高所得国に受け入れられた庇護申請者・難民を対象とするメタ分析によれば、女性の生涯における性暴力の被害経験率は44%と推定される(ただし信頼区間は24〜67%と広く、これは出身国や移動の途上での被害を含む生涯経験率であって、受け入れ国での被害率ではない)30。欧州ジェンダー平等研究所(EIGE)は、移住する女性や少女が、移動と定着の各段階でジェンダーに基づく暴力のリスクにさらされ、そこには強制結婚、DV、搾取が含まれると報告している31。ムスリム女性が共同体内部の抑圧を受けうることは前節のとおりであり、ムスリムのゲイ、レズビアン、トランスの当事者も当然に存在する。
ムスリムのLGBTQ難民については、ドイツの庇護審査で「西欧的なゲイ像」に合わせなければ認定が通りにくいという研究が示されている32。同国の制度においては、クィアなムスリムの申請者が最も可視化されにくく脆弱な層だとも指摘されている33。さらに、「真正さ」を測る審査の枠組みがホモナショナリズムと結びついているという批判もある34。つまり、「西欧の女性・LGBTQ」対「脅威である移民」という二分法では、両方に該当するインターセクショナルな弱者が見えなくなってしまう。
西側的な個人の権利を尊重する立場から言えば、出自や宗教にかかわらず、女性本人の自由と安全を守らなければならない。
逆に、リベラル側も「差別を見ない」ことでは対抗できない
極右への警戒から、リベラルの側が共同体内部の女性差別やホモフォビアをあいまいにしてしまうことも、同様に問題である。「文化だから尊重する」という態度は、先ほど述べたイスラム共同体内の女性や性的少数者の被害を見て見ぬふりをし、彼女ら・彼らの人権をないがしろにするという意味でもある。その被害を語ることまで「イスラム移民へのレイシズム」として封じてしまえば、結果として被害者を置き去りにすることになるだろう。
その典型として、英国のグルーミング・ギャング事件が挙げられる。ロザラムでは1997年から2013年にかけて少なくとも1,400人の児童が性的に搾取され、加害者の多くがパキスタン系とされた35。これを機に「加害者はパキスタン系だ」という認識が広まったが、警察は、民族性のデータがないことを理由に、肯定も否定もしない姿勢をとった。2025年6月のケイシー監査によれば、加害者の民族性は3分の2の事例で記録されておらず、全国データからは何も言えない。ただし三つの警察管内の地方データには、アジア系男性が容疑者に不均衡に多いことを示す証拠があり、さらなる検証に値するとされた36。このデータの空白の背景には、警察などが人種差別との批判を恐れて、捜査や民族性の記録を避けてきたことがあると指摘されている3637。被害者の多くが少女であったことも、この問題が強い怒りを呼びやすい一因だったと考えられる。その中で続いた「肯定も否定もしない」態度は、当局やスターマー政権が何かを隠しているという不信を生み、右派ポピュリズム勢力がこの問題を政治的に取り込む余地を与えたとされる38。
では、宗教と個人の自由が衝突したら何を優先するのか
イスラムと性的少数者の共存という話をしようとすると「イスラムの世俗化」という問題に立ち入ることになる。世俗化とはすなわち、宗教的共同体の規範と個人の基本的人権とが衝突したときに、何を優先するかという順序の問題であり、信教の自由をはじめとする基本的人権を宗教規範より上位の規範とすることである。
すなわち、礼拝する自由と同時に、信仰しない自由、宗教を離脱する自由も保障されなければならない。そして、宗教的共同体の規範よりも、個人の身体、性、信仰、離脱の自由を保障する世俗法を上位に置く必要がある。女性やLGBTQの権利についても、宗教や共同体を理由とした例外を設けてはならない。
西側諸国においては、この立場は「反イスラム」ではなく宗教一般に適用される世俗主義として整理することは可能である。そもそも論としてこういった法的立場ははキリスト教の世俗化のために整備されてきたものであり、フランスの1905年政教分離法は、ブリアンが提出した妥協的な鎮静化の案として成立し、良心の自由と礼拝の自由を保障しつつ、国家が宗教を承認も補助もしないことを骨格としている39。
ただし、この理念が現実にどう運用されるかは別問題である。学校での顕著な宗教的標章の禁止や公的空間での顔面覆いの禁止といった現行の規制は40、ライシテがムスリムの標的化に使われているという批判を呼んできた41。
欧州の人権法の枠組みは、どこまで一般論で、どこからがムスリム狙い撃ちかということを部分的に法理化している。欧州人権裁判所の大法廷は、2003年のレファ党対トルコ事件で、シャリーアに基づく体制は、刑法・刑事手続の規定、法秩序における女性の位置づけ、私的・公的生活のあらゆる領域への宗教規範の介入といった点で、人権条約と両立しないと判断した42(ただし、この判決は、政党の綱領(宗教に基づく複数法体系の導入)と党員の発言を根拠にした政党解散の事案であることに留意43)。欧州評議会の議員会議も、離婚や相続に関するシャリーアの規則が、性別や宗教による差別を禁じる条約第14条などと明らかに相容れないとの立場を示している44。こうした判断は、宗教一般ではなく特定の宗教法体系を名指ししたものでもあるため、上に述べた「特定の宗教の狙い撃ち」との区別が、司法の運用においても問われ続ける。
イスラムの反同性愛はキリスト教と同根である
西欧における同性愛者の権利擁護の歴史は、キリスト教神学が形づくった「ソドミー」罪の概念45と、それに基づく迫害、それに対する対抗の歴史と切り離せない。イスラムの伝統でもロト(ルート)の民の物語は重要で、ジョナサン・ブラウンによれば、「ロトの民の行為」(リワート)は他の罪から際立った位置を占めてきた46。ソドムとロトの物語というアブラハム系宗教に共通する素材を出発点とする点で、両者は「同根」である(ただし、その後の精緻化は異なり、前近代のイスラム世界には近代西洋的な意味での「同性愛」概念はなかった47)。
いずれにしても、同性愛敵視や女性の権利の制限が宗教的規範を根拠に主張されているという点で、イスラム保守の主張は、キリスト教保守が担ってきたものと同型である。革新派がキリスト教保守を退けるのは、それがキリスト教だからではなく、宗教的規範による個人の権利の制約を認めないからである、という建前を守るならば、同じ基準をイスラム保守にも同じ強さで適用しなければならないだろう。つまり、キリスト教保守に対して訴えてきた世俗化を、イスラム保守に対しても訴えることになる。
両者の歴史的経緯は異なるため、「同じ強さ」の中身は一様ではありえない。だが、二重基準は「すべての差別に反対する」という立場の説得力を内側から掘り崩し、同性愛者の権利を掲げてムスリム排斥を正当化する極右、ホモナショナリズムに地歩を明け渡す原因ともなってきた。
欧州の世俗化も最初から自然に成立したわけではない
キリスト教圏のヨーロッパにも、宗教をめぐる深刻な政治的・社会的対立があった。フランスでは1562年から1598年にかけて、カトリックとプロテスタントの間で宗教戦争が続き、サン・バルテルミの虐殺(1572年)などを経て、1598年のナントの勅令が信仰の自由をユグノーに認めることで終結した48。この勅令は、良心の自由と公的礼拝の一部を認めた、ヨーロッパで最初期の寛容令の一つとされる49。しかし、その共存も長続きせず、勅令は1685年に廃止された。1905年の政教分離法も、長年の反教権主義と教会の対立のなかで成立したものである。この法は、対立を鎮めるための妥協案として提出された39。ただ、それは法の成立が穏やかだったことを意味しない。当時のカトリック系の新聞がその日を「喪の日」と非難したように、強制と抵抗の両面を伴う過程だった50。教皇ピウス10世も激しく反対した51。この法は「宗教戦争の終結」をめざした平和化の法として語られる一方で、同時に激しい政治闘争でもあった52。国家中立と礼拝の自由を掲げたにもかかわらず、20世紀には「仏仏戦争」と呼ばれる緊張を招いたとも分析されている53。
したがって、「イスラムだけが特殊だから世俗化できない」という説明は単純に過ぎる。だが同時に、「対話を続けていれば自然に世俗化する」という楽観も、歴史を単純化している。現代の人権主義が認めているのは、宗教を信じる自由と、宗教に従わない自由を、同じ法の下で保障することである。しかしそこに至るまでには、血で血を洗う闘争があった。
世俗化を求めるとは、この国にいる限り人権法が宗教的規範に優先するという原則を、例外なく適用することである。そこには強制が伴う。だが、この強制なしに、LGBTQ+や女性の権利とイスラムの教義を共存させることはできない。キリスト教もまた、政教分離が法制化されてはじめて、それらと共存するようになった。求められるのは、その強制が流血に至らないよう配慮しつつ、特定の宗教の狙い撃ちに堕さないよう、すべての宗教に同じ基準を同じ形で適用することである。この匙加減は難しい。だが、それを怠り、「すべての差別に反対する」という題目を唱えるだけであれば、現実の問題は解決されず、ホモナショナリズムを掲げる極右の伸長を許す一因となるだろう。
私の見解
最後に私自身の見解を述べる。この問題で最も大きいのは、移民擁護側も反移民側も、相手を個人ではなく「属性」で敵か味方かに分類してしまうことではないだろうか。反移民側が「移民」という属性を理由に排除しようとする一方、移民擁護側も「移民」という属性を理由に擁護しようとする。もちろん、差別や社会的な不利益を考えるうえで集団としての傾向を見ることは必要だが、それと個人を属性だけで判断することは別である。
私は古典的な意味での人権主義者なので、クリスチャンもムスリムも、移民も自国民も、共通の人権原則と法の下で扱うべきだと考えている。イスラム保守による女性やLGBTQ+への権利制限にも反対するが、それはムスリムだからではなく、その主張が人権に反するからである。同じ基準はキリスト教保守にも、そして移民を排除しようとする側にも適用されなければならない。そういう観点から言えば、本質的な部分で、移民擁護側も反移民側も、属性を基準に人を判断することで、人権主義を軽視してしまっているように思えるのである。
ちなみに私はこの問題をシャルリー・エブド襲撃事件の直後から10年越しで言っているし、私だけでなく多くの人が指摘しているのであるが、いまだに解決せずむしろピンクウォッシング極右の勢力は増長している。「全ての差別に反対する」人たちは思考を放棄して「私に反論するやつは全員差別主義者だ」と逃げ続けている結果、ピンクウォッシング極右の増長をかえって招いているように見えるのだろうが、どうだろうか。
(2026/9/28)
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