マイクロクレジットとサラ金は同じであり異なる

 マイクロクレジットという小口商業向けの金融が注目されていた時期がある。その代表格がグラミン銀行で、社会への貢献を目的としてかかげそれから逸脱しなかったことで、金融機関2006年に「底辺からの経済的および社会的発展の創造に対する努力」に対してノーベル平和賞が贈られたほどである。ノーベル賞を受賞して知名度が上がった後、日本で消費者金融などの問題が浮上すると、「外国にはこのような素晴らしい金融機関があるのに、日本には暴利をむさぼるサラ金しかない……」などと引き合いに出されることがあった。

 しかし、少なくとも外形的にみると、グラミン銀行を含めマイクロクレジットは商工ローンのような貸金業者そのものであることは様々な人が指摘してきた。まず、金利が20%ほどあることが指摘される。物価上昇率を考慮しても実質金利は10%を超え、グレーゾーン金利になりかねない領域にある。また、無担保である代わり、日本では悪名高い連帯保証制度を採用している。取り立ても比較的厳しいと言われている。自己資本についても、広く預金を集めるのではなく少数の金主(現在は政府筋)が出資しており、日本でなら貸金業法の管轄になる。グラミン銀行が日本にあれば、完全無欠のサラ金・街金になるのである。かたやノーベル賞を取るほどの善意、かたや鬼畜のごとく言われる営利。なぜ両者は同じ外形であり、違う評価をうけるのであろうか。

外形が同じ理由:貸す相手が似ているから

 外形が同じであるのは、持続可能な方法で零細に貸すには最適解は変わらないことがその理由であろう。人に金を貸すときには、当然ながら貸し倒れリスクがある。貸し倒れがあっても損得トントンにするためには、貸し倒れ確率の逆数の金利を取ればよい。半分が夜逃げするなら、残りから2倍取れという要領である。貸し倒れリスクの高い借り手に上乗せ金利(リスクプレミアム)が提示されるのはこのためである。実質金利が10%あるということは、借り手のうち9%が夜逃げすると査定されているということを意味する。

 また、日本の貸金業者もマイクロクレジットも、担保がとれない貧しい借り手を想定している。担保があれば貸し倒れしそうでもそれを回収すればよいので金利を下げることができるが、担保がなければ利率は高くせざるを得ない。しかし、貧しい借り手には高い利率は厳しいものがあり、気軽に借りられるようにするには、これをなるべく低くしたい。その方法論として、連帯保証で貸し倒れの発生する確率を減らすことになる。付随的に、連帯している人の間での協力も期待できるようになるだろう。同じような借り手を想定しているから同じような貸し方になるのである。

 また、貧困層が多い国では小口の預金を集めることも期待できないため、少数の大口出資者に頼ることになる。結果として、外形がそっくりになるのである。

評価が異なる理由:貸す相手の商売が成立する可能性が異なるから

 では、なぜサラ金とマイクロクレジットはかくも評価が異なるのであろうか。それは、零細の商売が成立する土壌があるかないかが異なるからである。途上国は基本的に生産力が乏しく、投資して生産性を上げる余地が大きい。零細の個人であっても、生産・商売するニッチはまだ数多くある。このような状況で、無産市民を自営業者に仕立る時に、運転資金を貸す必要がどうしてもある。グラミン銀行はここに貸し付け、商売を始めさせ自立を促すことで社会に貢献する金融機関として評価されているのである。

 日本でも、まだ生産性の低かった室町・江戸の昔から、自営業が多い時代は日貸し金融が発達しており、カラス金だの街金だのと様々に呼び名を変えて続いてきた。このような無担保高金利の貸金業者が自営業を助ける模式例を、wikipediaからそのまま引用する。

  1. 行商人のAさんは朝、千円を借りました
  2. Aさんは借りた千円で市場で商品を仕入れました
  3. Aさんは町へ行って仕入れた商品を売り歩きます
  4. 夕方には仕入れた商品を売りさばき千三百円の売り上げを得ました
  5. 夜、Aさんは金貸しに元本千円と利子の百円を返済しました。
  6. Aさんの手元には二百円の利益が残りました。

 グラミン銀行も、基本的にはこの伝で「商売を始めさせ自立を促すことで社会に貢献する金融機関」となっているのである。

 問題は、上記のような素朴極まりない行商人は、流通が高度に発達した先進国では通用しないということである。高度成長期を経て商売の高度化・大規模化が進展し、歩く労苦を支払うだけで3割の利ザヤを稼ぐことのできる商売はなくなってしまった。今や日本では、裸一貫・肉体だけが資本の状態から個人で始められるような商売は少なくなり、新規の個人営業が一定数ある業態はもう飲食店くらいしかないというのが現状である。こうして、貸金業者は金欠サラリーマンくらいしか借り手がいなくなり、サラ金と名を変えていくことになった。また、高度成長期のただ中から現在まで無事に営業している零細業者には、継続して商工ローンと呼ばれる貸金業者が金を貸しており、貸金業法の規制強化時には商売の継続ができなくなると不安視する零細業者の声も少数ながら伝えられていた。

 以上の通り、途上国では小口の貸金業者は小口の商売ニッチがたくさんあるために「世のため人のため」になり、そのようなニッチが埋まった先進国では、高利貸し以外にやることはない状態となる。これが、外形的には同じでも評価が異なってくる理由である。ただし、外形的にはサラ金そのものであるから、高金利で取り立ての厳しい金融機関であることには違いはなく、ただの高利貸しと言われることも当然ながらあるだろう。

(2010/12/15)