メモ - アメリカのリベラル男の有子率はたった22%で保守男の半分以下
最近、The Left’s Family Problem: Marriage and Kids Cratering Among Liberal Young Adultsという記事を見かけてグラフが気になったのでメモを残しておく。
まず先に述べておくと、この記事の著者(Brad Wilcox)および掲載している機関は、伝統的な結婚と家族形成を強く擁護し、幸福・繁栄・文明の基盤とする傾向を持ち、保守的な宗教・文化コミュニティや「家族第一」マインドセットを理想像として描く点で、明確に伝統保守的な家族観を推進している、ということは留意していただきたい。
ただしデータソースであるGeneral Social Survey (GSS)は、1972年からシカゴ大学のNational Opinion Research Centerがアメリカ成人を対象として実施している全国代表的な社会調査(主に態度、行動、人口統計的特性に関するデータを収集)で、社会科学分野で広く利用される高品質なデータであり、データそのものは事実でその解釈に留意が必要、と覚えておくとよいだろう。
リベラルの少子化
記事の「Getting Married Younger」セクションに示されるデータでは、25-35歳のアメリカ人において、1980年代の結婚経験率(ever married; 離婚や死別経験者も含まれる)は保守派男性が74%、リベラル男性が61%と13ポイント差であった。女性では保守派が83%、リベラルが75%、差は8ポイントであった。
以降、両イデオロギーとも婚姻率は低下傾向を示すが、特にリベラル側の低下が顕著である。2020年代では、保守派男性の婚姻経験率が57%に対し、リベラル男性は35%と22ポイントに差が拡大する。女性でも保守派60%に対しリベラル44%と16ポイントの差が生じ、全体として保守派が子供を作れる年齢で早めに結婚する傾向が強まっている。
Brad Wilcox and Grant Bailey. "Marriage and Kids Cratering Among Liberal Young Adults." Institute for Family Studies. November 24, 2025
子供を持っている率(有子率)では傾向がさらに顕著になる。女性で保守派65%対リベラル60%、男性で保守派59%対リベラル47%と保守優位だった。2020年代では女性の保守派が71%と上昇傾向を示す一方、リベラルは40%へ急落(2010年代の51%から)。男性も保守派47%対リベラル22%と差が拡大しており、婚姻経験率の推移と並行して保守派の家族指向が持続し、リベラル側の低下が加速している。
Brad Wilcox and Grant Bailey. "Marriage and Kids Cratering Among Liberal Young Adults." Institute for Family Studies. November 24, 2025
25-35歳という範囲を設定していることで婚姻の速さが数字の差をブーストしていることは留意が必要で、最終的な婚姻経験率と有子率は40歳時点あたりで見なければならないだろうが、ただ婚姻が遅いほど最終的な産児数が減るという相関もあるので、この数字は40歳時点の婚姻経験率や有子率を大きく外ししているわけではないとも思われる(40歳で追いつくとしたら、リベラルは高齢男性がおじアタックしまくっている気持ち悪い人たちという話になってしまう)。
ただし逆因果の可能性はありえる。産む前は仕事復帰する気満々だった女性が生んだ後に子供がかわいくてしょうがなくなり仕事を辞めてしまうといったケースは後を絶たないが、産んだことで保守化する可能性はなきにしもあらずで、これは縦断研究がないと分からない(本当にそうであればリベラルは結婚というフィルタで濾された非モテの思想ということになるが)。
またリベラルは都市部に多く、都市部は家賃が高いために結婚しにくいという問題があり、こういった交絡因子の成分が含まれることにも注意が必要である。
保守派のほうが高い婚外子率
2020年代の保守派女性では有子率71% > 婚姻経験率60%のため、最低11%が婚外子保有者と推定される。一方、リベラル女性は有子率40% < 婚姻経験率44%のため、DINKSがよほど多くない限り婚外子率は低くなるはずで、子供を持つ場合に結婚を前提とする傾向が強いと推定できる。男性では両イデオロギーとも有子率 < 婚姻率(保守-10%、リベラル-13%)のため、婚外子率は低いものと思われる。保守派女性の高い有子率が一部婚外子を伴う形で実現している一方、リベラルは全体的な家族形成意欲の低下により婚外子も少ないと見られる。
アメリカの保守派が自らを「家族価値の守護者」と位置づけ、宗教的な道徳観を強く掲げて伝統的な結婚と家族形成を強調する価値観を考慮すると、若年層のデータで保守派女性の有子率が婚姻経験率を上回る(最低11%が婚外子保有者と推定される)状況になってしまっているのは皮肉である(Cahn & Carbone "Red Families v. Blue Families"によると、最近の傾向として共和党支持層のほうが低学歴になり、低学歴女性が婚外子を多く作っているとされる)。
逆にリベラルを見ると、こちらのほうが性に対してネガティブな考えを持っている――例えばパートナーを性的に強く求めるということをよしとしない――ということであり、中絶禁忌で性の娯楽性を戒める宗教保守派が性におおらかで、中絶の権利を求めるリベラルのほうが性嫌悪的という、一昔前とは逆転した構造になっている。
保守派が人口で勝利するか?――答えはNo
親の政治性向が子供に引き継がれるならば、リベラルのほうが出生率が低いならばリベラルは消滅するはずである。しかし著者が議論している通り、リベラルの出生率は大幅に下がったが、現状リベラルは減っていない。言い換えると「親の政治性向が子供に引き継がれる」という主張が誤りであって、成長とともにそれぞれ自分の政治性向を獲得していく影響が大きい。
GallupやBrookingsのデータでは、若い女性が急速にリベラル寄り(民主党支持)になり、Z世代の男性は変わらない――か、ミレニアル世代に比べフェミニスト自認がやや減っている分極傾向が強まっており、このジェンダーギャップがイデオロギー格差の主な要因となっている。
"Exploring Young Women's Leftward Expansion." Gallup. September 12, 2024
この状況は、過去の人口動態に基づく政治予測が外れた例と類似する。たとえば、2002年の書籍『The Emerging Democratic Majority』では、移民や少数派人口の増加により民主党が永続的な優位を築くと予測されたが、現実は白人労働者階級や移民の民主党離れにより現実とはならなかった。後年の分析でも、この予測の誤りは人口統計の変化が政治的忠誠を自動的に決定しないことに起因すると整理されている。
ただし、この傾向が続けば国全体としては出生率が落ちることは間違いがなく、その点でBricker & Ibbitson "Empty Planet: The Shock of Global Population Decline"やPhilip Jenkins "Fertility and Faith"などの議論が完全に消え去るわけではなさそうである。
21世紀の左右対立の主役:男女論
ここまで見た通り、アメリカにおける保守vsリベラルの対立は、21世紀以降は男女論という対立に収斂しつつある傾向を示しており、その度合いは年を追うごとに深まっている。
日本のXでも2020年頃から男女論(フェミニズム vs. ミソジニー、男女対立論)が顕著に強まっており、2025年現在ではポストの増加やトレンド入り頻度から当たり前の光景になっている。この傾向全体については基本的にアメリカ発の議論で、21世紀に入ってから一貫して分極は強まっており、日本が遅れて同調しているとみて良いだろう。例えば#metoo運動などは明白にアメリカ発であったし、旧Twitter時代(特に2017年の#MeToo運動以降から2023年7月のX改名まで)の日本語Twitterでは、ハフポスト日本版(@HuffPostJapan)がそれを翻訳・紹介した記事を多く出してバズっていた(ただしキュレーションチーム解雇後はハフポストのビューは大幅に減った)。
時系列から言っても、ハフポスト日本版が広めたという可視化できる点から言っても、基本的に日本の論壇が男女論だらけになっているのは、(元々日本にその素地があったとしても)アメリカの議論を、リベラルを自称する人たちが輸入してきた影響が一定割合あるのは否定できない部分ではあろう。
ただ、アメリカと日本では素地となる背景は異なり、アメリカの保守リベラル分断が宗教・中絶・銃などと絡んでいるのに対して、日本では家事育児分担やら家計負担の論争が主になっているので、展開としては違うものにはなっている。
ちなみに
タイトルは、このほうが煽り効果があるだろうと思って付けている。面白いのは、「リベラル女性のほうが子供が少ない」と書いてもリプロダクティブ・ライツの選択の問題として回収されるが、「リベラル男のほうが結婚もしてないし子供もいない」だと煽りとして感じるリベラル派が多かろうという点である(少なくとも𝕏のレスバだとリベラル派の男性でもすぐにモテ非モテに回収しようとする人がいる)。
<2025/12/29>


"Exploring Young Women's Leftward Expansion." Gallup. September 12, 2024