メモ - 「逃げ恥」の家事労働の算定に異議あり

ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の作中の「主婦の労働の金額換算」について、白河・是枝(2017)『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』では以下のように試算したそうである。

> 2011年の女性全体の平均時給1383円(厚労省賃金構造基本統計調査)×140時間(月20日×1日7時間)=19万3620円。四捨五入すると、19.4万円になります。

問題は、1日7時間という数字が長すぎるということだ。この140時間という時間は社会生活基本調査から算出したそうだが、この資料では真っ先に「女性の平均家事時間は1日3時間」と出る。中身をよく見ると子育てが終わった専業主婦で月140時間に到達している場合があるが、これは週7日×1日5時間という計算であり、週5日×1日7時間という計算では決してない。

また、「子育てが終わった専業主婦」というのが曲者である。というのも、統計をよく見ると、子育て中の専業主婦(無業者)や有業者の女性(統計を見る限り兼業主婦が多いと思われる)では、家事時間は1日3時間前後か、それを切る。作中ヒロインは子無しで「子無しなのにそんなに忙しいか?」という疑問が出るが、実際のところは子育てが終わって暇を持て余して家事時間が倍近く伸びる、というのが統計から推測されるところである。

さらにもう少しいえば、作中では家事請負をやっていることになっているが、よく見ると同棲なので家事は自分も受益者になっている。税務署に申告する場合にはこれは自家消費とみなされるので、その分を差し引かねばならない。なお子供がいる場合でも親権/扶養義務の半分を持っているのでそれも半分が自家消費になるので同じである。

こういう差し引きをすると1/4程度、5万円ほどになってしまうが、実はこれはある家政婦サービスの「満足プラン」を週1以上の頻度で呼ぶのに近い金額であり(家政婦は交通費と間接経費込み)、1人暮らしで生活が維持できるバランスとしてこんなものだろうという金額になる。

主婦業の価格算定は普通に計算すると主観的に厳しい金額になるので、何らかの形で「水増し」が入ることが多い。上記のように労働時間を水増しするとか、単価をその道最高のプロのものにするとか、サービスの小売価格を使い設備費・消耗品費・交通費・間接経費なども全部算入してしまうといった手法が多い。7時間という数字を決めた側曰く「水増しではない、待機時間込み」だそうだが、子育て中で子供の送り迎えがあるならともかく、そうでないのに待機時間というのは若干無理がある。

幼児の子育ては高負荷

所謂主婦業を見た場合、幼児の子育ては圧倒的に高負荷で、急変にも対応しないとならないので「24時間が待機時間」と言っても過言ではない。特に年齢が低いうちはそうで、保育士配置基準では保育士1人あたり0歳児は3人まで、1~2歳は6人までに対して3歳児では20人、4歳以上では30人となる。保育園以外の時間をずっと見ているのだから、その価値は高い。家事時間が有業者と同程度に減るのはさもありなんと言うところである。

小学生くらいまで上がると昼間は楽になるが、保育園含めてある程度の年齢までは送り迎えなども必要なため、この分は拘束時間として算入して良いだろう。PTAなど義務的な無償労働も発生する。ただ、このあたりまでくるとパートに出る余裕も比較的出てくる。

主婦の価値を評価するなら、むしろこのあたりを評価すべきだろうと考える。

家事の価値の相対的低下

なお、家事時間が減ってきているのは白物家電や中食・外食の発達と言う要因もある。今は晩婚化で独身男性も家事の経験を詰むことが多くなったが、それが出来るのも家電や中食で相当省力化しているからである。ただ逆に、そうであるからこそ家事の価値が相対的に低下してきており(一人暮らしで困るような人はかなり少ない)、むしろ夫のほうが家事がうまくて主婦であることに気が引けるといった人生相談が増えているのが現状というところである。

<2021/01/04>