家賃補助は地主を肥えさせインフレを加速させるだけで、貧しい人の可処分所得を増やさないので絶対にやめておけ
2026年の総選挙にあたり、家賃補助を政策の柱に据えようという話が出ている。
新党「中道改革連合」の共同代表に就任する野田佳彦氏は22日、「……家賃補助など生活者ファーストの考え方を打ち出したい」と述べ、住宅価格高騰対策も公約の柱に据える考えを示した。1
家賃補助は、多くの研究で指摘されているように、結果として家賃相場を押し上げ、住める住宅の質や立地はほとんど変わらないまま、受給者の実質的な可処分所得の改善にもつながりにくく、その多くが地主側の収益増加として吸収される傾向があるとされている。インフレ圧力が問題となっている局面においては特に副作用が大きい政策であり、少なくとも慎重な制度設計なしに拡大することは強く疑問視されるべき政策と言える。
家賃補助はアメリカやフランスなど各国で行われているが2
1. 第二次大戦後に世界各国住宅不足となり、公団住宅的な供給サイドの支援策が取られた
2. 供給支援策の終了時に、低所得者支援だけ分離して住宅手当になった
というのが各国の基本経緯で、現在は生活保護と同じセグメントの制度として運用されているようである。日本の場合は生活保護の住宅扶助が同じカテゴリに分類される。
家賃補助があるフランスの中央銀行であるフランス銀行の解説3によると、住宅補助は需要を押し上げることで家賃上昇を招きやすく、家計支援効果の一部が家主側に帰着する可能性が高いと整理されている。フランスの実例を扱ったLaferrère and Le Blanc (2004)4 や Fack (2006)5 の研究では、住宅補助は少なくとも短期的には入居者の居住水準を大きく改善せず、相当部分が民間地主の家賃収入増として現れたと報告している。同様の効果はアメリカの住宅バウチャーでも報告されており(Susin, 2002)6、こちらの場合は人数制限があるために、制度対象からわずかに外れた低所得層が上昇した家賃の影響を受け、相対的に不利な立場に置かれた可能性が指摘されている。
なぜこのようなことが起こるかというと、住宅供給の価格弾力性が低いことが主な理由とされる。言い換えると、家賃が上がったからといって「これは儲かるぞ」と新規参入業者がすぐに現れたり、短期間で住宅供給が大きく増えたりするわけではない、ということである。賃貸住宅は建設から数十年単位で回収される長期資産であり、土地利用規制や建築コスト、立地制約などもあるため、短期的な価格変動に対して供給量が機動的に調整されにくい構造になっている。
この結果として、家賃相場は《より良い住宅から順番にオークションで価格が付けられる》といった価格形成プロセスを踏むことになる。家賃補助によって住宅限定の購買力が全体として引き上げられると、その分だけ入札可能額が上がり、家賃相場は全体的に上昇する。しかし市場に出ている住宅の質や総量はすぐには変わらないため、結果として同じ品質の住宅に対してより高い家賃を支払う構図になりやすい。つまり、補助を受けた側の実質的な可処分所得は思ったほど増えず、差額の相当部分が住宅の供給側、すなわち地主の収入として吸収されることになる。
日本でも生活保護の住宅扶助で同様の傾向が示唆されており、宗(2017)7は、(1)住宅扶助を受ける人の家賃は扶助の上限額付近に集中しており、扶助を受けていない低所得者よりも高い水準になる場合があること、(2)東京・大阪・名古屋など大都市圏を含む都道府県では、生活保護制度の存在が家賃水準を押し上げている可能性があること、を指摘している。
「激狭で防音性の無いアパートで子育てしてる人いっぱいいるのに、子育て世帯を救うにはどうしたら良いのだろう」8という問題意識はもっともであるが、供給側の価格弾力性が低いことが根本要因であるなら、長期的には住宅供給を増やす政策が不可欠になる。ただし住宅建設は耐用年数が長く、将来の人口減少局面では過剰ストック化するリスクもある。今の不足に対応して大量に建設した結果、10年後20年後に空き家問題として批判される可能性も十分にある。その意味では、問題提起した人が言う通り、「18歳未満の子を扶養する世帯限定で都営住宅の所得制限を大幅に緩和する」といった、既存ストックの活用を中心にしたターゲット型の供給政策は、副作用を抑えつつ支援を行う現実的な選択肢の一つと言えるだろう。
その他の議論
そもそもなぜ家賃で苦しんでいるのか
日本の場合は、「都心に通う共働き」の増加が主原因と思われる。共働きの場合、子供の送り迎えなどで夫婦両方が住職近接を求められ、その結果として都心に近い交通至便な乗換駅などに需要が集中する。夫婦ともども都心に通う共働きが増えれば問題は必ず発生し、家賃補助をすればオークション式価格決定により必ず家賃が上がり、問題は解決しない。公共交通機関を増やすのはさらに難しいので、都心で働くのをやめる、くらいしか解決策はないと思われる。
家賃上限の設定
賃料上限規制は、低所得者保護という目的では直感的に魅力的に見える政策だが、前段で述べた住宅は長期投資ゆえにおっかなびっくり行われるという流れにより、賃料上限規制を行うと供給側が怖がって住宅供給が減る不利益が大きいようである。9
長期的な効果
フランス中央銀行の報告3にしても最近のスウェーデンの報告10にしても、住宅供給は慢性的なようである。日本もそうだが、長期的に見て人口が減少トレンドにある場合はその影響はますます大きくなるだろう。
類例――出産一時金増額
補助金の増額に合わせて値上げ、というのは別に類例もある。出産一時金が8万円増額された際は、近所に競争相手がいないとか、あるいは遠くからでも来る人気の産院では、軒並み8万円の値上げが行われた11。統計的には平均で1万1000円ほど増えたようである12。もっとも、こちらは正味7万円の補助が成立したわけなので、住宅補助よりはだいぶましだろう。
(2026/01/23)
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齋藤純子「公的家賃補助としての住宅手当と住宅扶助」レファレンス 平成25年12月号 国立国会図書館調査及び立法考査局 ↩︎
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Housing subsidies: a smaller upward impact on rents if supply adjusts. Banque de France. Published on the 30th of January 2023 ↩︎ ↩︎
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Laferrère, Anne, and David Le Blanc. "How do housing allowances affect rents? An empirical analysis of the French case." Journal of Housing Economics 13.1 (2004): 36-67. ↩︎
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Fack, Gabrielle. "Are housing benefit an effective way to redistribute income? Evidence from a natural experiment in France." Labour Economics 13.6 (2006): 747-771. ↩︎
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Susin, Scott. "Rent vouchers and the price of low-income housing." Journal of Public Economics 83.1 (2002): 109-152. ↩︎
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宗健「低所得者の居住安定に関する制度検討-生活保護住宅扶助及び民間賃貸住宅の家賃滞納を題材とした学際的アプローチ-」筑波大学システム情報工学研究科2017年 ↩︎
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Diamond, Rebecca, Tim McQuade, and Franklin Qian. "The effects of rent control expansion on tenants, landlords, and inequality: Evidence from San Francisco." American Economic Review 109.9 (2019): 3365-3394. ↩︎
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出産育児一時金の増額にあわせて、産院の便乗値上げが続出 SNS「ただの病院へのお布施」「無意味な少子化対策」 2023/01/10 ↩︎