ジェンダーギャップ指数というザル指標で見落とされてしまう差別

今年もジェンダーギャップ指数が発表され、日本は121位と相変わらず低位であった。この指数については、政治的エンパワメントに極端に加重がかかっており、かつ指標の採り方が女性の絶対的人権状況をとるものではなく性比一本槍で評価するためブレやすく、そういった点に対する批判が多く聞かれる。

個人的には、政治的エンパワメントも目指すべき目標の一つであるのだから、そこに文句を言う筋合いはないと考えている。そのうえで、ジェンダーギャップ指数は政治的エンパワメントの指標としてもあまり質が良くないと考えている。ジェンダーギャップ指数は差別構造が残っているにもかかわらず見た目だけ順位を上げるハック・チートが容易であり、かつ実際上位に並んでいる国に差別的構造が残っていることが多いからである。言い換えれば、差別を撤廃するための指標としてあまり役に立っていない、ということである。この項では、それらの事例について検討していこう。

性役割分業国家、北欧

ジェンダーギャップ指数最上位には北欧諸国が並んでいる。一般的に言えば北欧は人権について先進的に取り組んでおり、男女差別があるなどといわれても信じられない、難癖だと思うであろう。しかし現実には、北欧にははっきりとした性役割分業が存在する、ということがスウェーデン統計局の「Women and men in Sweden」を読むと分かる。

スウェーデンでは女性の社会進出が進んでいるが、その実進出している業界は非常に偏っている。業種別の男女比によると、女性の比率が80%を超えている業種は、保育園、幼稚園、小学校、介護、清掃、保健補助員、看護師、各種一般職的事務員などで、女性の多く(むしろほとんどと言ってよい)がケアワークの分野で働いている。一方で、建設作業員、自動車工、機械工、電気工、運転手、倉庫番などはほぼ男性の業種となっており、女性はごくわずかしかいない。

sweden-description Women and men in Sweden 2018. 30大業種における被雇用者の男女比、分野別高等教育進学率

スウェーデンは高等教育就学率が男女比が3:5で女性のほうが多い。男女比が3:5というので異常と感じた貴方の勘は鋭い。男女が対等に扱われているならここまで男女比が崩れることは考えにくく、実のところ男女分業があるからここまで大きなギャップが生まれる――スウェーデンの女性は“高等教育”でケアワークを学んでいるのである。日本の制度でたとえると、男性で肉体労働をするなら高卒で就職するが、女性で同じ層の場合は保育士や介護士になるために短大に通っており、それが女性だけが受ける高等教育としてカウントされている、というのが「女性の高等教育」の実態である。一方、男女平等に取って本当に大事であろうSTEM系については男子が2/3を超えている。

そういったスウェーデンの女性ケアワーカーたちは、そのほとんどが自治体に雇用されている。そして、スウェーデン女性の管理職は、その大半が《女性しかいない自治体ケアワーカー職場のリーダー》なのである。しかも、その自治体の中ですら男性のほうが管理職になりやすい。この実態をもって「男性と対等」と言うべきかは疑問符が付く。

sweden-description Women and men in Sweden 2018. 男女別就業セクター、就業セクター別管理職男女比

ここまでのスウェーデンの実態をまとめると、スウェーデンの女性の社会進出は、「ケアワーカーとして」「自治体に雇用されていて」「女性の管理職は《女だけのケアワーカーのリーダー》」というのが実態である。この状況を少し厳しめに書き下せば、主婦が名義上公務員になってボスママが公式に管理職の肩書を持っているだけ、とも言える。この実情をもって「女性の社会進出が進んでいる」「女性もリーダーになっている」というのには抵抗がある。言い方を変えれば、「スウェーデンの真似をしよう。ケアワークは女の仕事。女の大半は地方公務員として保育と介護と清掃をやりましょう」という制度を導入したいか?と言われれば、――おそらく多くの女性、特に女性の社会進出を支援する活動家はノーと言うのではなかろうか。

sweden-description スウェーデンの就業状況の模式図

もちろん、北欧は女性の政治家の輩出に熱心であり、大臣の女性クオータなどの導入は北欧女性の努力の結果と言えよう(ただ、筆者は人口と民主主義の在り方は密接に関係していることを重視しており、人口500~1000万程度なら日本でも北海道知事や東京都知事のように女性首長がすでに生まれていることは留意すべきと考える)。その努力は素晴らしいし、ジェンダーギャップ指数はそれを捉えて高得点を付けているので、その点はジェンダーギャップ指数は機能を果たしている。

ただ、その一方で「ケアワークは女の仕事」というあからさまな性役割分業があっても得点が上がってしまうハックは存在するし、北欧の高得点に確実にそれが貢献しているのも、また事実なのである。

一族支配の途上国

ジェンダーギャップ指数8位にはフィリピンが入っている。このランキングでは、途上国が上位に食い込んでいることも多いが、フィリピンをはじめとしてこのうちのいくつかの真似をするのは容易である。政治家一族の中から女性を世襲させればよい。安倍晋三一族の中で優秀な女性を探してきて地盤、看板、カバンを受け継がせ、自民党内で「安倍晋三の後継者」として力を付けさせ首相につかせる――私としてはまっぴらごめんだが、ジェンダーギャップ指数は「女性が首脳であること」にかなり重い加重をかけているため、8位のフィリピンなど一族政治が強いところで女性が世襲政治家として首脳を務めるとランクがジャンプアップする。

こういった国は東南アジアでは多く、フィリピンのベニグノ・アキノの妻コラソン・アキノをはじめとして、インドネシアの国父スカルノの娘メガワティ、ミャンマーの国父アウンサンの娘アウンサンスーチー、バングラデシュの国父ムジブル・ラフマンの娘シェイフ・ハシナや2代大統領ジアウル・ラフマンの未亡人カレダ・ジア、インドの国父ネルーの娘インディラ・ガンディーなど、「国父の娘」「有名政治家の未亡人」が後に首脳に祭り上げられる例が多い。これらの国では、カースト制の残るインドを始め、階級支配・一族支配的な傾向が強く、一族であることが男女より優先されるため結果的に女性が首脳になることがあるだけで、男女差別は厳然として存在しており、現在のところ女性首脳も国父の一族であるという男性中心主義的な条件で選ばれているし、「国会議員の女性比率」などでは日本より悪いところも多いのだが、女性首脳の項目で点を稼いで上位の順位に付けていることがしばしばある。

また、フィリピンを除くこれらの国はイスラムの風習や持参金殺人、村を挙げたレイプの隠蔽など女性にとって極めて劣悪な人権状況であることが知られる国も多い。フィリピンはましなほうではあるが、現在でも香港やシンガポールへメイドとして劣悪な条件で出稼ぎに出ることも多く、女性の人権状況が良好とはいえない。実際、国連UNDPのジェンダー開発指数やジェンダー不平等指数では低評価の国も多いのだが、ジェンダーギャップ指数では集計法の問題で比較的高得点を取っている。

これは茶化しているように聞こえるかもしれないが、ジェンダーギャップ指数12位のフランスあたりでも起こりえることでもある。前回のフランス大統領選では、極右国民戦線の創立者の娘マリーヌ・ルペンが決選投票まで食い込んでいる。もし彼女が大統領になれば、システム上、フランスはさらにジェンダーギャップ指数を改善させるだろう。日本で言えば安倍晋三が三原じゅん子に後事を託すとジェンダーギャップ指数はそれだけの理由でどんどん上がっていくことになるが、そうなったら今現在ジェンダーギャップ指数で日本の現状を嘆いている人でも、この項同様に「指標の作り方が悪い」などと文句を垂れるのは目に見えている。

なお、10位ナミビアのクーゴンゲルワ首相は亡命の後アメリカに留学し数少ない高学歴者として実力で首相になっており、このような例は一族支配ではない。

男を選択的に殺す

ジェンダーギャップ指数6位にはルワンダが入っている。ルワンダは25年前に全国民の10%から20%が犠牲となる凄惨な内戦・虐殺を経験しており、虐殺当時一定の年齢に達していた層は今現在に至るまで男性がごっそりいなくなっており、性比が65~85%程度まで落ち込んでいる。

ルワンダ虐殺は人道上許されないジェノサイドであり、人類史に残る悲劇であることから、あまり茶化すようなことを言うつもりもないが、少なくとも、そのような人類史上に残る非人道行為がランキングに反映されてしまうこともある、というのは事実である。

rwanda-description ルワンダの2012年の性比。人口はルワンダ政府の推定による。

歴史的に見て、西洋諸国でも女性の人権は第一次大戦、第二次大戦で、男性が選択的に大量に死に、その労働力を補うために女性が労働市場に参画したことで発言権を強めたという経緯もある。その意味では、歴史をなぞっているともいえる。

正攻法の国、アメリカ

アメリカ――特に東西海岸の子育てはなかなか大変で、育休がないため産後2か月で復帰するのが当たり前の環境の中、非常に高額の保育費を払って労働に復帰し、キャリアを積んでいる。保育費は都市中心部では月額30万円弱、郊外でも月20万円弱が必要であり、フルタイムで預ければ普通に夫婦片方の月収の半分が吹っ飛ぶレベルにある。需要超過のため保育園に入るだけでも一苦労するようで、「かなりの世帯が、子供を預ける前から毎月約20万円の保育料を払いながら入所権利を保持していく」状態にある。

さすがにこのような保育事情はアメリカの夫婦にとっても厳しいようで、保育費を浮かせるために男性が定時・時短するのは当然で、結果的に男性の育児参加が進み、夫婦が対等の関係でケアワークを担っていくことが増えている。

余りの厳しさにめまいがしそうになるが、それでも「隠れた性役割分業」などが存在するわけではなく、正攻法でやっている国の一つであることには違いがない。「ジェンダーギャップ指数で上位の国から男女共同参画を学ぼう」と言われたら、私はアメリカを選び、「厳しくてもやっていくしかないという意識づけをプロモートする」方法をとるだろう。

(2019/12/19)