ヒトを「進化論的」「生態学的」に語るのはお勧めしない

人の行動様式を語るのに、「ヒトはこのように進化してきたからこのような行動が本能に刻まれているのだ」というような説はよく見る。だが、これらは気軽に根拠にするには足りないものが多い。一つの例を食事で示そう。

フリータリアン(果実食を主張する人々)がしばしば行う説明に、以下のようなものがある:

Humans are designed to eat mostly fruit. We’re frugivores, just like monkeys and chimps.(ヒトは果物を食べるようにできている。我々はサルやチンパンジーと同様に果実食なのだ。)そのブログ

一方で、低炭水化物食を推奨する人たちは以下のような説明をしばしば行う:

人類の歴史は肉食とともに~穀物を腹一杯食べるようになったのは最近のこと~要するに炭水化物を腹一杯食べられるようになり、異常なほど砂糖を消費するようになったのはここ百年くらいに起こった事なのだ。だから人間の身体はまだ、炭水化物ばかり食べるような偏った食生活に適応しておらず、炭水化物中毒を起こしていると言うことらしい。そのブログ

ある者は「ヒトの進化の歴史上、長らく低タンパクで果糖の多い果物を食べて進化してきたのだから、それが最良だ」と言い、またある者は「ヒトの進化の歴史上、高タンパクの肉を食べてきたのであり、炭水化物は少なかったのだから、それが最良だ」という。これだけ見ても、現代人のことを「進化論的に」説明するのは大してあてにならないといえるだろう。こんな説明をするくらいなら、徹底してアウトカムだけで評価する世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事のほうがはるかに健全というものである。

配偶者選択様式

 こういった俗論的な進化論的・生態学的説明がしばしば行われるものとして、配偶者選択様式――男女の好みの説明がある。最近でもやれ若い女を好むのは当然だの、いや類人猿は経産婦を好むだのといった話がされていた。だが、「野生状態のヒト」現生人類(またはホモ属)の有史以前の配偶者選択様式はよくわからない点が多いので、「進化論的にこう」と言うのは難しい。

 サル目全体に話を広げれば、その繁殖様式は多様である。例えばチンパンジーは乱婚、ゴリラは一夫多妻の傾向が強く、オランウータンはオスは子育てに非協力的、サル目全体ではこれらに加え一夫一婦など多様な形式が見られ、「こうなるように進化した」というような特定の傾向はない。この中で、乱婚や一夫多妻ではパートナーと死別しても新たなパートナーを選べばよいので「今季最も繁殖率が高い相手」が合理的な選択である一方、一夫一婦で一生を添い遂げるようなケースでは繁殖回数を最大化するため選べる中で若いパートナーが合理的なので、選択傾向は異なってくるはずだが、ヒトがどれかに適合して進化した証拠もなく、有史以来の配偶者選択様式は乱婚・一夫多妻・一夫一婦どれも見られ、結局その様式の中で自分に最も有利なものを選択していると説明したほうが進化論的・生態学的な俗論に比べればよほどマシであろう。

 サル目全体で通底する特徴があるとすれば、K選択で共通に有利となる(と思われる)「オスは可能なら種を広く蒔くが、育児成功率が低い場合少数に絞って育児支援する」「メスは可能な限り育児支援(カネを稼げて家に入れる、を含む)をするオスを選択する」程度のものだろう。これに関しては、ヒトが1年に1度しか出産できず、育児に10年以上の長い時間をかける生き物であるという制約から、本能などを抜きにしても理知的人間が合理的選択をしたとしても十分成り立つ説明なので、どうしてもやりたければこれで説明することをお勧めする。

(2018/05/14)