再生可能エネルギーのこのあたりは押さえておきたい

 2013年の九州電力の「接続拒否」問題以降、送電線の接続ルールについて安田陽さんなどが出力調整義務付き相乗り(コネクト&マネージ)を実施すればもっとつなげるという話をずっとし続けていて、太陽光発電がいよいよ増加してきた2018年になった現在もまだ制度化されていないという話を聞き、行政は何やってるのと思い不平を述べたところ、経済産業省の電力政策の委員会をご紹介いただいた。

 送電線相乗りはルール作り、特にどういうインセンティブが生じているかという分析が大事なため、ミクロ経済学者に頑張って欲しいと思っており、実際経産省の委員会には経済学者の参加も多いのだが、読んでいて制度の考え方で頷けても、技術的な部分でほぼ全面にわたって疑問なものがちりばめられており、あまりに引っかかってしまったため、制度的な部分を純粋に読み込むために引っかかる部分を外に括り出しておくことにした。

松村敏弘氏の場合

資源賦存量の少ないものを“普及”させようとする?

 震災直後のエネルギー基本計画に関する意見(2011/10/26)、ローカル系統内で消費する地産地消型電源の推進に関するコメント(2017/7/22)では

⇒太陽光や風力に偏らず、より安定的な小水力、地熱、バイオもバランス良く入れていくことが重要 バイオマスは潜在的に最も価値の高い電源になり得る。

 としてこれらを推している。ここはかなり引っかかってしまった。なぜならば、小水力、地熱、バイオは量が取りにくいことが以前から知られていたからである。例えば環境省が震災直後に出したポテンシャル調査では、FITで40円/kWhあたりまで下駄を履かせた場合の採算ラインと、未来に想像しがたい技術革新があって取りつくせるようになったときの2つのシナリオについて検討しているが、小水力と地熱についてはそれぞれ100万kW(発電所の発電機1基分)も取れれば十分ではないか、という程度にさじを投げてしまっていた。

種別 FITシナリオ 導入ポテンシャル
太陽光  需要を上回る 需要を上回る
風力  2,400万~1.4億kW 2.8億kW
河川小水路  90万~406万kW 1,400万kW
水路小水路  16万~24万kW 30万kW
地熱 52万~537万kW 573万kW

 これらの事情は2017年末の実際の導入量でもそれは反映されている。例えば小水力などは高校で習う程度の位置エネルギーの定式で資源賦存量は計算でき、これらを安易に増やそうというのはさすがにセンスがないと言わざるを得ない。またバイオマスについてもドイツでの導入事例ではその発電量は日本の小水力、地熱と似たり寄ったりであり、特に環境面からの批判の強いバイオガスが終了した場合、持続可能な木質バイオマスだけでは無いに近い量となるだろう。

熱利用にこだわりすぎ?

 また、2011年にも2017年にも電熱併給(コジェネ)を推す傾向がみられるが、はっきり言えばコジェネは使いづらい。

  1. コジェネで得られる熱は、外気との温度差が少なく、産業的には利用価値がほとんどない。
  2. 熱は運びづらく保存しづらい。よって熱を利用する設備と近接する必要があるし、設備側の温水・暖房施設なども専用に作り替えが必要である。
  3. コジェネの排気温では「隣の施設に暖房や温水に利用できれば関の山」程度である。
  4. 熱の保存しづらさから、電熱併給は「熱の需要がある時間」だけ効率がよく、夏などは熱源はむしろ邪魔である。

基本的に電力中心で熱はおまけ(発電所併設の温水プールなど)と考えるか、暖房のついでに多少電気が出るが、電力供給にまともに貢献するレベルではない(コジェネ)のどちらかに偏りがちである。ドイツの木質バイオマスはコジェネ型のものが多く、冬寒いドイツでは電熱併給は向いているはずだが、それでもランニングコストは高止まっており、電力供給での存在感はないに等しい。

 電力の価格付けの制度を松村敏弘氏の望む通りにしたとしても、松村氏のいうような電源構成は技術的制約によって実現しないと考えられる。

普及率とコスト感の勘所

 松村氏は「再生可能エネルギーの普及を(2030年目標で25%以下に)阻むのはコストの問題である」としている。これについては正しいと思うが、松村氏が主張するような制度の改正で押し上げられるのは5~10ポイント程度ではなかろうかと考える(5~10ポイントも上がるので重要だと考えいるのではあるが)。

 現在の日本の再生可能エネルギーは、量が取れる太陽光(と風力)に偏っている。太陽光については、昼間需要いっぱいを賄えるだけの発電機を設置したとしても、朝夕は角度が浅く夜は光がないため発電量が減り、1日トータルでは晴れた日であっても需要の25%程度の電力量しか供給できない。風力についても季節により風に偏りがあるため、年間通してみると24時間365日フル稼働したと仮定したときの電力量の25%程度を供給するのがふつうである。この制約から、蓄電が発達するでは再生可能エネルギーの上限は3割強になるだろう。この数字を超えている国は、人口密度が小さく水力が主力か、または外国に余った電気を売れるために成立している。日本では外国との接続が厳しく、それは難しいだろう。

 蓄電池の現状としては、テスラが最近稼働させた世界最大の蓄電システムを基準にすれば、日本3000万戸に24時間供給するのに100兆円超、これに商用電源を加え、梅雨時などの対策でマージンを取れば、1000兆円はくだらない電池が必要であり、それらは5年以内に劣化して使い物にならなくなる。それに加え、そもそもリチウムや鉛がそれだけ大量の電池を作るほどには資源がない。蓄電池の問題は、電解液をプールに注ぎ込む方式やら、CO2と水から炭化水素を作る方法やら、革新的な技術の開発を待つしかないのが現状であろう。

 蓄電池問題に次いで大きいのはエネ庁の資料にもある通り発電設備自体の建設コストであり、これが諸外国に比べ倍以上高い。ただ、これに関しても、砂漠や平地、あるいは同じような推進の遠浅の海に同じ規格の発電機を大量に並べるのに比べ、複雑な地形に突風や豪雨に対する対策をせざるを得ない日本の事情が関わっている部分もあり、制度面の改革がどこまで利くかは未知数の部分がある。

(2018/5/4)