自転車の青切符導入と普通の人の脚力
自転車は2025年現在でも飲酒運転等が赤切符による罰則の対象になっているが、これに加え、一時停止違反など様々な違反に対して青切符による罰金を支払わせる制度がスタートする。
この制度は、交通事故全体が減少する中で、自転車vs歩行者の事故件数だけが高止まりしていることへの対策と見ることができる。交通事故全体で見ると2016年90,836件→2022年69,985件と77%まで減少する中で、自転車vs歩行者の事故は2016年に2281件に対して2022年には2905件1と127%まで増えており、この10年だけ見ると増加トレンドとも感じられる程度の数字になっているため、対策もやむを得ないところだろう。
青切符は信号無視、一時停止違反、右側通行、歩道における通行方法違反、 遮断踏切立入り、ブレーキ不備、携帯電話使用、傘差し運転、指定場所外での横並び走行あたりが対象となる(飲酒運転は以前から自動車と同じ赤切符)。スマホを見ながらの走行や傘さし走行はほとんどの人が危ないと思っているだろう。筆者の普段の暮らしでも路地での逆走・二段階右折違反・信号無視のトリプルコンボ(建物の陰から青信号ギリギリで通ろうとするトラックが出てきたら即死の恐怖)をほぼ毎日見るという状況で、取り締まらないと危ないなと感じていて、規制は当然かなと思っている。
原則車道走行に対する議論
しかしながら、今回の青切符導入では自転車ユーザーの反発がある。主な焦点となっているのは、原則車道走行と歩道通行時のルール順守の厳格化で、車道は怖くて走れない、歩道を走らせろというものである。
〔視聴者コメント〕車道は、怖くて走れません!何故、こんな無理な法律作ったんでしょうか2
ただ、冒頭で述べた通り交通事故全体が減る中で自転車vs歩行者の事故が減らない/切り取り方によっては増えているのが青切符導入の目的である。自転車vs歩行者で死亡・重傷事故になったケースの4割程度が歩道での事故で3、従前から「自転車が怖くて歩道を歩けない」という声もあった。
「歩道をかなりの速度で走行している自転車が多く、子どもを連れていると危険に感じることから、定期的に取締りをしてほしい。(地域住民)」1
〔被害者小学生の〕母親「本当に車と同じで自転車も人の命を奪うかもしれない。とても危険だなあと思いました。今回の事故で特に危険性が身にしみました。」4
自転車が歩道で徐行すれば問題なかったのだろうが、徐行は守られず、歩道の自転車が危険で死亡事故を頻発させているので車道に追い出すことにした、という流れと言っていいだろう。
車道を走ることが明らかに危険な場合もあるが、そういったケース――「13歳未満の子どもや70歳以上の高齢者、身体の不自由な人」「路上駐車等で車道がふさがっている場合」「交通量が多いわりに道路が狭く危険な場合」は徐行を条件に歩道通行が認められている。自転車ユーザーは素直に歩道を徐行すればよいだろう。
警察の提示する「ちょうどよくない」速度
警察曰く:歩道10 km/h、車道20 km/h
自転車が歩道を走る場合には、特別の指定がない限り徐行を求められるが、この「徐行」は目安として「時速に換算すると8キロメートルないし10キロメートル毎時程度」5、ジョギングに毛が生えた程度の速度であると示されている。
いっぽう警察は車道での「一般的な自転車利用者の速度」は最大20 km/h程度と考えているようだ67。
徐行10 km/hと通常20 km/hがどの程度の速度かというと、足の回転を1秒1回転("快速"程度)に保った時、ママチャリに多い内装3段変速では1速で10km/h、2速で15km/h、3速で20km/h程度になることが多い。つまり3段ママチャリなら歩道は1速、車道は3速が原則ということになる。
電動アシストでもママチャリ型は内装3段変速+3段階アシスト強度のモードを持っている場合が多く、筆者が乗ったことのある機種(B社製およびY社製)はいずれも1速+アシスト低で10 km/h➡歩道徐行、3速+アシスト強で20 km/h程度➡車道走行が想定されている印象だった。
平均的ママチャリ利用者の快適速度は15 km/h
自転車の原則車道通行については、前述の速度想定が不満の種になっている部分もある。というのも、平均的なママチャリ利用者の快適速度は15 km/hでちょうどその中間にあり、「10 km/hは遅すぎ、20 km/hは無理」になりがちだからである。
平均的な20~70歳の3分持久力上限は、運動強度8~10メッツ程度になる8。自転車を平地20 km/hでこぐ運動強度も8メッツ程度である9ことを鑑みるに、大半の25歳過ぎの人にとって20 km/hはかなり早く、長時間維持できずゼーハーなってしまうくらいの速度になる。
ある程度長時間維持できる運動強度は持久力上限の2/3程度10、5~6メッツ程度で、平均的な20~70歳の場合は12~15 km/h程度なら自転車で長時間維持できる。つまり大半の人にとっては徐行の10 km/hはかなり抑えた速度になる。
大まかに言えば、警察の想定する速度「歩道10 km/h、車道20 km/h」は、ほとんどの人にとって遅すぎるか速すぎ、必ずイライラする速度で走るように指示されている、という感覚になる、ということだろう。
歩道走行の是非:10 km/hは妥当なのか?
自転車が歩道を走れないのはおかしい!という声はいいとして、そういう規制が強まるのは、歩道で徐行せず飛ばす馬鹿が多いからであり、みんなが徐行して歩行者にぶつかりそうなら止まるという殊勝な走り方をしていればそんな話にはならない。10 km/hは遅すぎる!という声も聞こえてきそうだが、筆者としてはこれは妥当な速度だと思うし、実際歩道ではギアを落として10 km/h程度しか出ない程度に絞って走行している。
なにしろ歩道を走っているとリスクが山盛りである。朝の時間帯は通園や散歩の幼稚園児が好き放題走っている。自転車で20 km/hでぶつかってしまったら人生を棒に振ることになるだろう。病院に通う老人もしばしばいる。走るルートにあるとあるラーメン屋は店員が建物の陰(倉庫か何か)からノールックでダッシュで飛び出してくることがしばしばある(あれはラーメン屋側も問題だが)。犬の散歩の動きは子供以上に予測が難しい。{轢いてしまうリスク}を考えたらとても20 km/hなんかで走ったりできない。そのくらいの速度で飛ばす高校生や電動アシストおばさんを見ていると正気かと疑いたくなる。
私は自動車や原付も運転するので、当然ながら{轢いてしまうリスク}には相応に敏感になる。速度的な面で危険だなと思う走り方をしている人を見ていると、高校生など自動車の運転をしなそうな人が目立つが、自転車も講習会を設けて{轢いてしまったら人生おしまい}と叩き込むべきだと思う。
自転車運転者の自損事故のリスク査定が低いのではないか、と感じるのは、ヘルメットが努力義務になったにもかかわらず着用率が低い点からも感じる11。自転車の転倒が怖いのは受け身が取りづらいということであり、受け身が取れなければ静止状態から転倒しても梃子の原理で頭を強打して流血沙汰になることがある。筆者は脳梗塞か何かで路上でいきなり倒れた人、信号のない横断歩道でほぼ停止中に転倒した自転車の2例で頭から出血して救急車を呼ぶ場面に立ち会っており、普通に立っていたり自転車を走らせたいたりでも頭が危険だということを思い知らされているせいかもしれない。
車道走行の是非:危険ではないのか?
筆者は自転車で走行するとき、大半の時間は法律通り車道を走っている。路肩が十分な幅のある道路であれば幹線道路でもそれほどのリスクは感じないし、歩道と車道を同じ15 km/hで走ったならば、{轢いてしまうリスク}を比較衡量すれば、むしろ歩道のほうが交通事故リスクが高いとすら思える。交通量が多いわりに道路が狭く危険な道路であれば車道走行のほうが危険かもしれないが、そのような道路は自転車の歩道通行が認められている。
「車道は危険だから走りたくない」と言っている人は、概ね以下のようなタイプではないかというのが個人的な推測である。
- 歩道走行時の{轢いてしまうリスク}を比較衡量していない
- 教習で習うレベルの周囲の確認をできていない
- 後ろから来る車が過度にプレッシャーに感じる
- 身近に交通量が多いわりに道路が狭く危険な道路しかない
このうち前の2つはどのみち必ずできなければならないことである。自分が轢くリスクを考慮できないとか、後方確認に信号を見る等の周囲確認ができないなら、10 km/hを超えて走る金属の塊で(歩道を含む)公道を走る資格がない。自転車も自動車も諦めて自動運転レベル5ができるまで公共交通と自分の足で移動してほしい。
後ろの2つに関しては、原付(原動機付自転車)と似た挙動はなのだから原付を法律通りに厳格に運転するつもりで自転車を走らせれば、そうそう危険を感じることはない。後ろからの自動車のプレッシャーは、積極的に道を譲ってほどほどに受け流せばよい(後述)。
最後の1点は、慣れろというのが正直なところだが、原付であってもあまり運転したくない貧弱な道路しかない地区もないではない。例えば起伏の多い住宅地、首都圏で言えば町田市や逗子葉山あたりは交通量のわりに道が狭くあまり運転したくないし、自転車でも原付でも辛さを感じるだろう。これは行政に文句を言っていい。
法律通りで安全確保の正攻法なら、自動車に迷惑をかけるのを気にするな
車道走行する自転車で、後ろから来る車がプレッシャーになるといった声は聞かれるが、道を譲るようにしていれば問題ない。交通の基本は譲り合いであり12、筆者は自転車走行時は後ろから自動車が来ていると察知すれば積極的に追い抜かせるように動くし、赤信号に差し掛かるようなら停止線のかなり前で左に寄せて徐行時に自動車が安全に追い抜けるように動く。
ただ、基本は譲る私であっても、いつでも自動車に譲るわけでもない。例えば狭い上に緩く左に巻いているカーブ(特にセンターラインが黄色の場合)では、対向車が見にくく、下手に道を譲っても追い抜き車が対向車と衝突する危険性があるので、わざと真ん中寄りに寄せて(後続の自動車がイライラするのを分かったうえで)抜くなという意思を示すことがある。これは後続車の安全のためにやっていることでもある。
NHKの記事2では、自動車1台分の幅の路地は怖い、といった意見が出されている。私はそのような道路では遠慮なく合法な範囲で道路の真ん中によせて追い抜きを阻止するように走る。結局のところそれがほかに合法な代替手段がなく、自動車・自転車ともに最も安全なので、後ろの車がイライラしようが無視してベストの手段を取る。そもそも論として、今後は路地等の生活道路13は標識がなくとも30 km/hまでに制限されるようになる14し、そのような道路は子供の飛び出しなどは日常茶飯事なので、自動車でも自転車に合わせて走る程度がちょうどよい。自転車を追い抜くには狭い道路で自転車が抜けなくてイライラする程度の自動車運転手は、それ以前に公道を走る資格がないと言ってもいい。自信をもって後続車をブロックしよう。
また車道走行の是非では路上駐車が邪魔で走れないという意見も多いが15、そもそも論としてそのような道路では歩道走行が認められているし。原付なら路上駐車が邪魔でも原則左端通行で車道走行をしなければならず、運転者は周囲をよく確認しながら追い抜く。原付にできることが自転車でできないわけはない。
また、道路交通法第47条で〔縁石や柵で仕切られた〕歩道がない道路では道路脇を路側帯の白線までか75cm開けるように指示されているため16、歩道がない狭い道でぴったり駐車している場合、警察を呼んでいやがらせのように駐車違反を指摘していれば、駐車環境か歩道の自転車通行指定部分のどちらかが整備されるだろう。
(参考)危険な自転車と、意外と危険でない自転車
特に危険な自転車利用者
青切符の歩道通行規制は「歩道をかなりの速度で走行している自転車が多く、子どもを連れていると危険に感じることから、定期的に取締りをしてほしい。(地域住民)」1――歩道を15 km/hどころか20 km/hで飛ばす自転車を相手にしている面も大きい。実際、歩道を観察しているとそのような人は少なくない。
①電動アシスト自転車 電動自転車の法規制では24 km/hまではアシストがつき、20 km/hでも35%程度はアシストされる1718。このため、普通の自転車なら快適速度が15 km/hを切るおばちゃんでも3速+アシスト強モードで20 km/hの安定走行が可能で、歩道で平然と20 km/h出しているのはよく見る。おばちゃんの運転するチャイルドシート付き電動アシスト自転車は、運転者の筋力が低いのに対して本体がクッソ重いため、運転者が直進以外の細かいコントロールをできないことが多く、そこが危険に拍車をかけている。
②(男子)高校生・大学生 高校生・大学生男子は半分以上で持久力上限12メッツを超えてくるし、部活をやっているならさらに上がる。このため楽々の範囲が20 km/hになる人も珍しくない。自動車の運転経験がないためか交通ルール全般に疎く、安全確認の不十分な人を多く見る。
③ フードデリバリー Uber eatsなどのフードデリバリーは、特に広がったコロナ禍の時期に交通違反が目立った19。最近の事情を見ると、個人的にはフードデリバリーの走行速度に危険を感じたことはあまりない(長時間の走行では足を残す必要があるためと思われる)。むしろ走行中のスマホ使用、信号無視、二段階右折違反などのほうが圧倒的に多い印象である。
比較的安全な自転車利用者
❶ 高齢者 新指針では70歳以上は歩道通行可となっているが、平均的な70歳以上の高齢者はもはや快適速度が10 km/hを割っており、普通に走っても歩行者にけがをさせる恐れは少なくなる。むしろ、一時停止を嫌がって無理な割り込みをするほうが問題であるように見える。
❷ 小学生 新指針では13歳未満も歩道通行可となっているが、これも基本的には脚力の低さを考慮してだろう。ただ小学生でも高学年の男子となると自転車で競争して歩道を20 km/h近くで飛ばすケースも時々見ることがあり、それはそれで危険である。道走行が許可されてるいるのは車道の交通ルールを守れないからという認知的面のほうが大きいだろう。親のしつけが重要である。
➌ ロードバイク 個人的に見る限り、ロードバイクに乗っているような人間は歩道を20 km/hで走るようなケースはあまり見ない。車道で危ない走り方をしているロードバイクは時々見る。
(参考)原則車道通行と、歩道における通行方法
警視庁の最新(2025年5月2日)の自転車交通ルール5を確認しよう。
まず、歩道とは縁石や柵で仕切られた場所(道路交通法第2条2)を指す。歩道がない道路で白線(車道外側線)だけで仕切られている場合は(歩行者の少ない郊外の道や、都会では路地で多い)路側帯という別のものとして扱われ(道路交通法第2条3の4)、歩行者が歩くべき場所とされるが歩道とは異なる扱いをされる。
縁石や柵で仕切られた歩道がある場合でも路側帯同様に左端が白線で仕切られている場合があるが、これは"路側帯でない路肩"なるものとして扱われる20。自転車がここを走行できるかどうかは法律で未定義なのだが、現在はここに(車道中の)自転車専用通行帯を設置するのがトレンドである。
路側帯(縁石や柵で仕切られた歩道がない場合の白線より外)は、歩行者が使うため原則として自転車は立ち入ってはならないとされているが、歩行者を妨げない限り左側の路側帯に入ることは認められる。ただし二重実線で仕切られた路側帯は自転車も進入禁止である。また路側帯での走行でも右側通行は違反となる(歩行者としては扱われない)。
縁石や柵で仕切られた歩道は、下記の条件で自転車も歩道通行可能である。
- 普通自転車歩道通行可の標識がある
- 普通自転車通行指定部分が指定されている
- 車道の自転車専用通行帯や自転車道が設置されていない
- 13歳未満の子どもや70歳以上の高齢者、身体の不自由な人
- 道路工事や路上駐車通行で車道(自転車専用通行帯や自転車道を含む)の通行が困難な場合
- 交通量が多いわりに道路が狭く危険な場合
上記条件を満たして歩道を通行する場合、以下のルールに従う必要がある。
- 徐行する
- 普通自転車通行指定部分が指定されている場合は、歩行者優先だが安全な速度まで
- 歩行者の通行を妨げない(一時停止して道を譲るのは自転車側)
- 中央から車道寄りの部分を走る
- 通行方向と車道から見て左右は問わない(相互通行可能)
(2025/07/13)
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法的にはセンターラインや中央分離帯のない道路で目安として道幅が5.5メートル未満の狭い道路 ↩︎
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Uber Eats配達員の交通マナー違反横行、ドコモ・バイクシェアは専用プランを廃止へ 2020年11月10日 ダイヤモンドオンライン ↩︎
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国土交通省道路局・警察庁交通局 安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン 令和6年6月 ↩︎