人口密度と自然エネルギー

 今日、消費エネルギーに占める再生可能(自然)エネルギーの比率の高さは環境への配慮度として捉えられ、それが高いほど良しとされる。例えば北欧では、ノルウェーについて「地熱や風力といった再生可能エネルギーを積極的に活用しており、国内の電力消費量のほぼ100%を水力発電で賄っている」「エコフレンドリー」1、アジアではラオスやブータンについて「インドシナ半島の内陸国ラオスが電力を100%水力発電で賄い、余剰電力をタイなどに輸出している」「自然エネルギー立国」として称賛する論調もある23

 これらの「自然エネルギー100%の国」については、強い人口密度が強く影響していることは否めない。太陽光は(緯度や雲量の差こそあれ)基本的には地球に均等に降り注ぐし、雨や風も場所によってある程度違いがあるとはいえ、大まかに見れば面積比例でそのエネルギーは得られる。つまり、人口密度が高ければ自然エネルギーの一人当たり配分が少なくなり、人口密度が低ければ自然エネルギーだけで行ける可能性が高まる。人口が増えればそれだけ雨が多く降り風が強く吹くわけではないから、当たり前の話である。水力発電は火力より低コストの発電方法が確立されており、人口密度が低い国は自然と自然エネルギー(水力)100%を達成している場合が多い。例えばラオスの人口密度は27人/km2、ノルウェーは16人/km2である4。    風況さえよければ火力よりコストの低い風力も太陽光に先立って普及しているが5、風力発電が全発電量の2割程度を占める高いスペインは92人/km2程度、ポルトガルは112人/km2程度であり、風力発電シェアの高さはこの人口密度の低さによるところも多い。デンマークとオランダは緯度(=風況)が近く面積も似たようなもの(4.3万km2と4.1万km2)で風力発電設備量、発電量とも差は倍もないが、オランダのほうが3~4倍程度の人口(密度)であるため、風力発電割合ではデンマーク48.8%に対しオランダ6.9%と大差がついてしまっている。

 日本も再生可能エネルギー比率を高めることが求められているが、日本は世界でも有数の人口密度の高い国である(335人/km2)4。これだけの人口密度があると、風力や水力だけで電力を賄うのは難しい。日本の総発電量に占める水力の割合はおおよそ9%であり6、仮に日本の人口が9%だったら――言い換えれば、ラオス並みの人口密度ならば、水力だけで余剰が出ると考えてよい。日本は決して自然エネルギーに恵まれていない国ではない。水力発電量は水の質量×落差で得られるが、日本は降水量にしても、山岳地系のもたらす落差にしても、ノルウェーやラオス、ブータンと同様に特に多い国と言える。風力は北海道や青森はデンマーク同様にジェット気流の影響下にありこれらの地域では期待できる。それでもこれだけ自然エネルギーの比率が低くなるのは、ひとえに人口密度のもたらす不利であろう。

 日本はオイルショック以来、エネルギー自給の観点から自然エネルギーの比率を上げようと努力してきた。しかし、水力と風力はどうしても限りがあり、地熱や波力なども限界が見えている。唯一量を確保できそうなのが太陽光であることは昔から着目されてきた。昨今自然エネルギーを積極的に導入しているドイツは、人口密度が231人/km2で世界の中でも比較的稠密なエリアである。水力は少なく、風力も洋上プラットフォームを用いるなど積極的に導入しているが12%程度にとどまっている5。特に最近のドイツの自然エネルギー比率の伸びは、太陽光を導入した成果であろう。ただ、太陽光は意図せぬ変動が多いので調整が容易な火力や水力との連携が必須であるが、ドイツの場合は連携する外国にそれを頼っているという側面があるのは、私には否定できない(他国に“必要悪”を押し付けて自国の“クリーン発電”量を増やしている、という見方)。日本は外国との連係に限りがあるので、その点は気を付けなければならない部分はある。

(2018/3/18)