2010年代の世界政治の潮流:左右対立からグローバリズムvs反グローバリズムの時代へ

この論考は左派内部のロジックをベースとして書いており、この原稿の執筆の約半年後にイギリスの左派の歴史学者ティモシー・ガートン・アッシュが同様の論考を発表しています。 Timothy Garton Ash. Liberal internationalists have to own up: we left too many people behind. 13 October 2016

トランプとサンダースの共通性

 米国大統領選に向けて各党候補者の指名投票が始まったが、共和党はトランプ、民主党はサンダースが旋風を起こしている。このうちトランプは過激発言で知られているが、その主張を細かく見ると、再分配重視で保護貿易路線である。この再分配重視・保護貿易路線は、実は民主党で旋風を起こしているサンダースと共通している1

 両者は共和党・民主党の首脳部(エスタブリッシュメント)からは受け入れがたい発言をしており、トランプは過激発言、サンダースは古風な社会主義を唱え、無知な大衆をだましているだけの《ポピュリズム》と呼ばれることもある。トランプは実際に演説で「君たち低学歴が大好きだ」と発言してしかも聴衆に受けており2、サンダースも小口寄付の多さで金持ちと無縁であるアピールをしていることから3、両候補とその支持者はポピュリズムであることを自覚しているといってよいだろう。この点においてエスタブリッシュメントvs反エスタブリッシュメント(ポピュリズム)という構図が出来上がっていると見て取ることができる。

 両者に共通しているのはポピュリズムだけではない。政策として考えた場合には自由貿易の拡大による競争強化、格差拡大への忌避が共通していると考えることができる。トランプは「メキシコ国境に壁を作れ」といった発言から人種差別的な排外主義者とみられることがあるが、必ずしも人種差別的というわけではない。彼は「同性愛の権利には擁護的だったり、リバタリアンのように社会問題ではリベラルな傾向」があり1、共和党の集会でイラク戦争を批判し聴衆の不興を買う事件も起きた4。彼はあくまで「経済ポピュリズム」1からメキシコの壁発言をしているのであり、保護貿易路線すなわち「アメリカ人だけが幸せになればよい」という主張はサンダースも共通しているところである。

エスタブリッシュメント vs ポピュリズムの背景としてのグローバル競争

 ここまで述べた通り、トランプとサンダースはエスタブリッシュメントに反抗するポピュリストであると同時に保護貿易論者である。言い換えると、エスタブリッシュメントは自由貿易を好み、ワーカークラスは自由貿易を嫌っているのではないかという見方をすることもできる。労組が自由貿易を嫌うのは伝統的なことであり、民主党内でこれが起こることは不思議ではないが、今回は自由貿易を好む立場である共和党で保護貿易論者であるトランプが支持されていることは注目に値する。

 その背景として、筆者は冷戦終結以降のグローバル化の進展とスーパースター効果5 6を指摘したい。スーパースター効果とは、知的財産などコピーが容易な商品は市場内で勝者総取りが起きやすく、市場が巨大化するほど少数に利潤が集中し格差が拡大するという理論である。冷戦終結以降のグローバル化で世界の市場が統合された結果、この効果が大きくなり、近年問題視される格差の拡大に寄与したのではないか、というのが筆者の仮説である。例えば、21世紀に入ってからの全世界の所得の変化を見た場合、最上位層と中国など新興国に該当する所得帯で収入が大きく伸びる一方、先進国の庶民に該当する所得帯は賃金が伸びず、相対的に負け組となっていることが指摘されているLakner] 7

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 また、Piketty & Saez (2006)によれば、20世紀前半の格差が資本所得によるものであったのに対して、近年の格差の拡大は事業所得や賃金によるものであることが示されている8。このような事実はグローバル化によってスーパースター効果が大きくなったという仮説――ありていに言えば経営者が「お前の代わりは世界中にいくらでもいるぞ」というような世界観と整合的である。そしてエスタブリッシュメントは経営者と親和的である――というより、経営者はエスタブリッシュメントの一部である。世界をまたにかけるエスタブリッシュメントはグローバル化の利得を肌身で感じている一方、先進国庶民層はグローバル化の利得を体感することもなく、両者の意識に大きな差が生じていたとしてもおかしくない。反エスタブリッシュメントとはすなわちグローバル化によって力をつけた経営者に対する反抗活動としてみることも可能だろう。

 上記の構図の実在をを示唆する調査結果も存在する。共和党内に旧来の方針に反する再分配・保護貿易路線を支持するトランプ派が存在する理由として、労組を構成した白人ブルーカラー層が労組をないがしろにする民主党についていけなくなり、共和党支持に流入していたことが指摘されている9。この傾向はトランプが引き起こしたものではなく、2014年の中間選挙の時点で民主党が大敗した原因として指摘されていた10。加えれば、この白人ブルーカラー層は景気の影響によって容易に失業する層であり、経済的な安定性を求めて保護主義に親和的な層でもあった9。民主党首脳部を占めるエスタブリッシュメントは、彼らの支持を集めることに失敗していたのである。

 ではなぜ民主党エスタブリッシュメントは彼らの指示を集めることに失敗したのだろうか。筆者はその理由として、グローバル化が(アメリカ的な意味での)リベラルの中核概念に組み入れられていたからだという点を指摘する。経済政策としての労働力の移動の自由、資本の移動の自由は共和党的な《右寄り》の政策だが、社会政策としての人の移動の自由や国境の撤廃、通貨統合はアメリカ的リベラル、民主党的、《左寄り》の政策に属する。特にEUを見れば、シェンゲン協定や通貨統合はPolitically Correctな政策として捉えられていた。スーパースター効果を鑑みればエスタブリッシュメントにとってはグローバル化は自己の利益の拡大に寄与し、もともと《いいもの》として捉えられやすい。同時にそれがPolitically Correctであって倫理的なお墨付きを得ているのであるから、これに疑問を感じることはなかったのではないか、それに反抗する動きとして《再分配・保護主義を基調とするポピュリズム》が出現したのではないか――これが筆者の見立てである。

 これを伝統的な共和党寄り、民主党寄りの政策と比較すると、ねじれが生じていることが分かる。共和党は経済政策ではグローバル化に親和的な自由貿易を主張する一方、社会政策においてはコミュニティ外の価値観を認めない閉鎖的主張を持っていた。民主党は経済政策では労組の基盤をもとに保護貿易の主張が強かったが、社会政策ではオープンなコミュニティを志向しグローバル化に親和的であった。

経済政策 社会政策
共和党 経営者目線の自由主義(グローバル化賛成) コミュニティ閉鎖志向(グローバル化反対)
民主党 労組目線の保護主義(グローバル化反対) コミュニティ開放志向(グローバル化賛成)

 この見立てが正しいのであれば、サンダースを「極左」と呼ぶのはふさわしくないだろう。サンダースはリベラルな傾向の強いマサチューセッツで勝てず保守的なオクラホマで勝ったが、サンダースが「極端なリベラル」であるのならリベラルの強いマサチューセッツで勝ち保守的なオクラホマでは負けたはずである。しかし、マサチューセッツは多数の大学を抱えるエスタブリッシュメントの州であるのに対して、オクラホマはそうではない。エスタブリッシュメントvs反エスタブリッシュメントという軸でとらえればこの結果は理解しやすい11。「極左」という表現は左翼の極端なもので、右から左まで一直線の軸がイメージされるが、今回の選挙では左右の軸と異なる《グローバル化賛成・反対》という軸で捉えるべき傾向が支配的となっている。そして共和党の半数をトランプがとり、民主党の半分をサンダースがとるような状況が続くならば、両党が割れてグローバル化賛成・反対で集約されるような政界再編もおとぎ話として捨て置くこともできないように思われる12

EUにおけるポピュリズムの台頭

 ここまでは主にアメリカのポピュリズムについて取り扱ってきたが、この傾向はヨーロッパにおいても共通である。ヨーロッパ北部では極右によるポピュリズムが多く、特にデンマークやハンガリーでは極右政党が政権政党になるに至っている13。一方で南欧では債務問題以降極左ポピュリズムが台頭しており、ギリシャのSyrizaは政権を獲得、スペインのPodemosも躍進が著しい 14。イギリスでは左翼のコービン15と右翼のUKIPの双方が躍進している。

 ヨーロッパの左右のポピュリズムに共通するのはいずれも欧州懐疑主義を掲げていることである。右翼はEUの社会政策を主に、左翼はEUの経済政策を主に攻撃しているが、いずれもダボス会議でスピーチするようなEU統合勢力16すなわちグローバル化推進派に対する反感が表出しているものであると考えられ、両者は極右から極左まで一直線の軸のイメージからは想像できないほど両者の差は小さい。例えばイギリスの事例では、極右のUKIPと“極左”のコービンが同じ労働者階級を取り合い、極右と極左で票の乗り換えが起こっていたことが指摘されている17

 既存労働者の権利を強める法制度を取っていると若年雇用に悪影響を与えることについては因果関係の有無を含めて長年議論があるが、少なくともベルギーにおいては“最低限の雇用”のハードルが高いために若年失業率が高く、それは同時に移民にとっても新規雇用のハードルの高さとなって立ちはだかっている18。この点は労組的政策と移民に寛容な政策の本質的な対立を示唆するものであろう。また北欧では福祉排外主義という形で強力な再分配と排外主義が結びつく傾向が指摘されている19

反グローバリズムのポピュリズムをどうとらえるか

 このような《反グローバリズムのポピュリズム》は知識人層、あるいはメディアからは嫌悪されてみられている。ただ、筆者個人としては反グローバリズムの流れに同情するところもある。ユーロ統合の恩恵を受けてタックスヘイブンで節税しつつその金でダボス会議でチャリティーをアピールして偉そうな面するU2のボノにいら立つ現地の意見20 21は分からないでもない。「私は首相として英雄的決断をした※ただし負担はお前ら自治体の金で」というエスタブリッシュメントのええ格好しいに庶民の金をつぎ込むスタイルに反感があるのも認知している22

 一方で、ポピュリズムの目指す世界が良いものになるとも言えない。例えばリベラルで知られるクルーグマンはサンダースの政策を“まじない”と批判している23(もっとも彼は貿易論で名を挙げた人ではあるが24)。社会全体の厚生が最も高まるのは分業がうまくいっているときであり、保護貿易路線はそのような状態に至ることを阻害するということは筆者も同意するところである。また《再分配・反グローバル化・ポピュリズム》が特に悪く出た例として、この路線を突き詰めたチャベス政権は、原油価格低下後のベネズエラに大きな混乱をもたらしているのもまた事実だろう。

 本稿では左右のポピュリズムが反グローバリズムで共通しており同じものと主張してきたが、日本の大衆言論界に多い「ほら欧州でも極右が台頭している、アカは死ね」と言っている自称右翼や「社会主義の復活万歳、極右どもは死ね」と言っている自称左翼の皆さんには不愉快なものかもしれない。しかしながらグローバル化政策は経済右派がやろうが社会左派がやろうが結果は同じで、しかもエスタブリッシュメントであれば動機が何であれ経済右派ルートと社会左派ルートのいずれからも利益を受けるのだから同機を区別する必要はますますない。旧来の左右の別を超えて、グローバル化推進エスタブリッシュメント vs 反グローバル化ポピュリストという形での政界再編が起こる可能性は、確率はともあれあるのではないか――というのが筆者の考えである。

(2016/3/5)


  1. 渡辺将人 アメリカNOW第128号 「ブローハード・イン・チーフ?」:トランプ現象 <現地報告>. 東京財団. 2015/08/27 ↩︎ ↩︎ ↩︎

  2. 【米大統領選2016】「低学歴の人たち、大好きだ」 トランプ氏 BBC 2016年02月25日 ↩︎

  3. サンダースとトランプと米国人の憤怒「アウトサイダー」への熱い期待が意味すること Financial Times 2016.2.10 ↩︎

  4. トランプ氏、イラク戦争めぐる発言で弁明 対話集会 CNN, 2016.02.19 ↩︎

  5. Rosen, S. (1981). The economics of superstars. The American economic review, 71(5), 845-858. ↩︎

  6. 筆者の解説 [グローバル化によって資本の競争力が重みを増す|Globalization+strengthen+competitive+capital) ↩︎

  7. Matt O'Brien The world’s losers are revolting, and Brexit is only the beginning The Washington post. June 27 2016 ↩︎

  8. Piketty, T., & Saez, E. (2006). The evolution of top incomes: a historical and international perspective (No. w11955). National Bureau of Economic Research. *Figure 2 ↩︎

  9. 細野豊樹 アメリカ大統領選挙UPDATE 2:トランプ旋風の根底にある学歴格差と2016年予備選挙の展望. 東京財団. 2016/02/01 ↩︎ ↩︎

  10. 細野豊樹 2014年アメリカ中間選挙update4:民主党のブルーカラー票問題(細野豊樹). 東京財団. 2014/12/11 ↩︎

  11. Jeff Stein Why Bernie won Oklahoma and lost Massachusetts Vox. March 2, 2016 ↩︎

  12. Nate Silver Don’t Assume Conservatives Will Rally Behind Trump. FiveThirtyEight. Feb 29, 2016 ↩︎

  13. あとで適切なのにします。ヨーロッパ 台頭するポピュリズム ↩︎

  14. Yannis Stavrakakis Populism in power: Syriza's challenge to Europe 16 Mar 2015 ↩︎

  15. Corbyn taps into rising mood of populism on the left Financial Times. September 13, 2015 ↩︎

  16. この表現はクルーグマンのブログからとったもの。Paul Krugman Europe’s Impossible Dream. The New York Times. JULY 20, 2015 ↩︎

  17. ブレイディみかこ 仏選挙で極右が圧勝。でも英国はジェレミー・コービン労働党が白星. Yahooコラム. 2015年12月8日 ↩︎

  18. Alex Tabarrok Labor Market Rigidity and the Disaffection of European Muslim Youth. Marginal Revolution, March 29, 2016 日本語訳 ↩︎

  19. 濱口桂一郎 スウェーデンは「ナチ」か?. 2009年9月11日 ↩︎

  20. Norton Hits Out At Bono's Tax Dodge. Contactmusic. 18 September 2006 ↩︎

  21. Bono takes Davos stage to celebrate Red charity . The Associated Press. Jan 22 2016 ↩︎

  22. 熊谷徹 難民急増でドイツが直面する試練. The Huffington Post Japan, 2015年10月30日 ↩︎

  23. Paul Krugman Varieties of Voodoo The New York Times. FEB. 19, 2016 ↩︎

  24. Krugman, P. R. (1991). Geography and trade. MIT press. ↩︎