資源の価値とは何か

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要約:一次資源の価値は最終需要によって決まる。需要が供給より大きければ濡れ手に粟をつけるように儲かるが、需要よりも供給が多ければ買いたたかれてほとんど儲からないか、採掘コストが高ければ赤字になる可能性さえある。このため、経済の資源への依存性が強ければ世界不況にむしろ脆弱である。また、資源はそれを利用して市場競争力を持たせられる技術があるかどうかで価値が決まる。資源を使う技術がなければ売りようがなく、別の資源を使う技術ができれば廃れてしまうものであり、安楽に座して儲かるというほど安定はしていない。最近は工業製品は供給過多で一次資源が相対的に供給不足であり、今後この傾向はしばらく持続しそうなので、現在一次資源生産の少ない日本でも技術開発により新しい資源生産方法の確立や資源使用の削減・代替などに取り組んでいる。

近年(2008年初頭ころ)の一次資源高騰により、資源の価値が著しく強調されて語られるようになった。その中で頻繁に見かける主張は、「日本は資源小国である」「石油を持っている国は楽して儲けられてずるい」というようなものである。確かに今の日本には当てはまるように見えるし、実に素朴な感想ではあるのだが、資源問題の本質に迫るためにもう一歩進めて考えてみよう。

資源を持つ国は豊かなのか?

 素朴な議論では一次資源を持つ国は豊かとされ、「資源があると金持ちになれる」「産油国は豊か過ぎて公的扶助は無料」などと言われることがある。しかし、資源国がどの程度豊かについてもう少し考えてみよう。石油が出るナイジェリア、ベネズエラやインドネシア、金銀ダイヤモンドが出る南アフリカ、原油もダイヤモンドも出るロシアやアンゴラは、そこまで豊かだろうか?鉄鉱石の出るブラジルはどうだろうか。外国企業に収奪されているという人もいるが、では基本的に自力でやっている南アやロシア、ブラジルやイランははたして豊かだろうか?ここ最近の資源高で儲かっていたようだが、それまでの時代はそこまで豊かではなく、むしろ貧しいくらいであった。需要がなければ大した値は付かないからである。世界の工業国が少ないうちは、数少ない工業製品を作る日本のほうがはるかに豊かであった(直近では一部の産油国は1人当たりGDPで日本を超える国まで出たが)。

 例えば産油国でも不況で需要がなくなれば原油は大きく値崩れして苦しむことになる*1。「不況が来ても資源があるから復活は早い」というのは、少なくとも資源を輸出して生計を立てている外需依存の国には当てはまらない。それらの国は世界が好景気なら労せずして大金を手に入れられるが、世界が不況になると働けども働けども買い手のつかない石ころしか手に入らないことになる。また、需要が同じでも供給が増えれば値崩れは避けられない。ソ連崩壊後のロシアのダイヤモンド放出による値崩れや、湾岸戦争の原因の一つとしてイラク側から主張されていた「クウェートによるOPEC割当無視の過剰供給」の時期の値崩れもそうだろう。このような状況下でOPECのような公然としたカルテルが存在するのも事実である。

 資源は黙っていればとれるものではなく、金属鉱山の開発にはかなりの投資を必要とする。原油に関しても現在開発可能性がある油田は1バレル60円を超えるコストがかかると言われており、日本近海のものは新潟沖などを除けば、東シナ海の油田やガス田は安くても原油換算で1バレル100ドル、大方は1バレル300円を超える採算コストとも言われる。資源採掘も投資であって、そこには採算性も赤字リスクも存在する。

 資源の価値の脆弱性故に、石油モノカルチャーのような資源依存の経済体制をとっていると、その価値の暴落時に深刻なダメージを受けることがある*2。とくに食料やエネルギー、その他基幹資材を輸入に頼っていると、生活が成り立たなくなるほどになる。単純に資源をもっていれば楽に稼げるわけではなく、それに依存すると危険である。加工技術を持って総合力をつけたうえで、一次資源の値上がりはたまに当たる博打と思ったほうが無難である。

コア資源は変遷する

 今価値がある石油も昔から価値があった訳ではない。石油の価値が上がってきたのは、内燃機関が本格的に使用されるようになってきた20世紀からの話である。言い方を変えれば、内燃機関という技術が花開いて始めて石油が価値ある物質として認められるようになったのである。それ以前は日本で採取されても、それなりに火がつく「臭水」程度の扱いであった*3。製鉄法と鉄鉱石、近代化学・材料工学とレアメタルの関係も同じである。

 逆に、技術の発達によって価値を失う資源もある。現在プラスチックと言えば石油から合成したものがほとんどだが、かつてはセルロイドが代表的であった。セルロイドの製造には樟脳が必要だったが、その樟脳の生産で日本統治下の台湾が世界シェア90%を握ったことがある*4。重要な産業であり戦略資源だったものも、技術革新によって石油製品に取って代わられた後は産業的には大きく縮小することとなった。

 このように、資源とはそれを生かす技術があって価値が生まれるものであって、資源を市場競争力に変えることができなければただの石ころにすぎない。戦略物資、コア資源は、技術変動に伴って移り変わり、加えて需給関係によって簡単に価格が変わってしまう代物である。技術と市場需給を合わせ、最終需要によって資源の価値が決まると言い換えてもいいかもしれない。

生産者・消費者としての資源依存性回避法

 資源価格は、消費者としての値上がりリスク、生産者としての値下がりリスクをともに抱えていると言える。昨今、消費者としてのリスクが極端に出たのが2006-2008の交易条件の著しい悪化である*5。交易条件の悪化とは

  1. 日本の輸出品の価値が下がっている
  2. 日本の輸入品の価値が上がっている

という両変化が起きていることを示す。この原因としては、新興国の工業化によって

  1. 日本の輸出品である工業製品の価値が競争にさらされ下がっている
  2. 工業化した新興国が資源獲得競争に参入し一次資源の価値が上がっている

ことの両側面がある。世界の人口は増え、中長期的に見て日本の交易条件が悪化する傾向は変わらないと思われる。

 このような状況に対応するもっとも手っ取り早い方策は輸入資源を使わないで済ますむしろ資源同等品を自国で作ってしまうことになる。代表例が第一次石油危機以来の「省エネ」、現在の「エコ」「二酸化炭素排出量削減」だろう。単に使う量を減らすという方法と、輸入が必要な化石資源を避けて国内で自給可能な再生可能エネルギー源を推奨する方法の両方からアプローチが行われている。同じく高度に輸入に依存したレアメタル関係でもそのようなプロジェクトは存在する*6

 最近流行の「内需拡大」を生産の観点からみるとここに行きつく。日本人に物を売る際に材料や特許で外国からの輸入が必要であるとすれば、低所得層への所得移転による生産消費の増加を国内をブラックボックス化して考えると、外貨を取り崩して外国から財・サービスを買い続けているものだと理解できる。この方法は外貨がなくなるまで円安と素材インフレを伴いながら実行可能である(ただしある程度円安になれば輸出競争力が出てくると考えられるが)。この持続性のなさと、政策的には所得移転の移転元に承諾を取るのが難しいため、むしろ外国から輸入しているものを自給自足するほうへ転換するのが(技術的・資源的問題を除けば)直接的で実行しやすいものである。技術開発や法制度の整備(別項目参照)によって外国からの資源輸入コストよりも国内での資源生産コストのほうが安くなれば、それは達成されるであろう。そのために、国内各社や政府の補助金によって代替資源・代替エネルギー問題が積極的に研究されているのである。

日本は資源が豊富な国だった

 「日本は資源小国である」という議論は、今でこそ石油や各種鉱石の自給率の低さから現実のものとして語られることだが、それを過去にわたって敷衍することは誤りである。総合的に言えば、日本は資源豊富な国として発展してきた。

 日本が資源輸出で著しく潤っていた時期の一つとして、安土桃山から江戸初期までの朱印船貿易で用いられた石見銀山産出の銀がある。石見銀山は当時の世界銀生産量の1/3を占めていたとも言われ、銀を輸出資本とすることで絹などを豊富に輸入することができた *7

 日本が産業革命を達成した主因としては、国内に豊富な石炭があったことが大きい*8。少なくとも1955年頃までは日本はエネルギー自給を達成していた*9。また、国産石炭は戦後のかなりの期間(1970頃まで)日本のエネルギー源として主要な地位を占めていた(図)。製造業の生産性改善と高付加価値化に伴って採炭が日本人の仕事としては見合わなくなり、安価な輸入化石資源にとって代わられることとなるのだが、ほんの40年前まではエネルギー資源を豊富に有する国であったこともまた事実なのである。

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 日本は今後資源大国となるだろうか?水の限界が21世紀の限界を決めるともいわれるが、水資源を適切に把握するでも書いた通り、この点では日本はやや有利な国に入るだろう。仮想輸入水の総量、現在の利用可能淡水と最大利用可能淡水の量を比較すれば、当面絶対的水不足となることはないだろうし、外国の水不足で食料価格が上がった場合、値上がりで採算が取れるようになった休耕地を復活させることで熱量的にはカバーできる範囲だろうと考えられる。コストが見合うようになれば利用されるかも知れない資源としては、深海底の資源(マンガン団塊など)やバイオマス(特に海洋利用のもの)などが考えられる。現段階では極端な資源値上がりに対しては保険となる手つかずの資源は一応持っている状態であるとは言える。

最後に川柳で。資源とは技術なければただの石石油とは技術なければ臭い水

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Last modified:2009/10/31 05:09:12
Keyword(s):[資源] [内需] [技術]
References:[FrontPage]

*1 共同通信 ロシア、8兆円近い財政赤字も クドリン財務相が見通

*2 吉川卓郎 国家の中の政治的イスラーム運動 -第2 次湾岸危機におけるヨルダンのムスリム同胞団の事例-

*3 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 石油・天然ガスに関するQ&A http://www.jogmec.go.jp/recommend_library/qa_oil/index.html

*4 社団法人高分子学会 高分子科学史年表 http://www.spsj.or.jp/nenpyo/1900-1908.htm

*5 みずほリサーチ 交易条件悪化からみた日本経済 -外需主導の成長や賃金低迷の背景にある海外への所得流出-

*6 文部科学省「元素戦略プロジェクト」及び経済産業省「希少金属代替材料開発プロジェクト」研究開発課題の採択について http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/07/07071217.htm

*7 孫引き:小葉田淳『日本鉱山史の研究 』岩波書店,1968年

*8 http://www.inagakilaw.com/asof/html/05x05/052105_2.html

*9 資源エネルギー庁 総合エネルギー統計 参考