震災からの復興に向けて、経済的な方針

復興の基本的目標地点

 今回の震災は原発事故も重なって被害が甚大なものとなり、生産性がかなり落ちることが予想されます。デフレ環境下と言えど負の生産性ショックは決して良いものではなく、生産力を効率的に(仕事に行くことを含めた)日常生活の復興に回さないとスタグフレーションに陥る可能性があります。

 今回のインフラ破壊で供給力が落ちたことでモノ不足となり人々は現金を吐き出しインフレとなるでしょうが、デフレ脱却論者と言えどこれを喜んではなりません。これは悪いインフレです。「良いインフレ」と呼びうるのは、人々がより多くの物を欲しがり雇用が増え、人々も手に入れられるものが増えるパターンです。震災の場合、人々は欲しがるものが増えたわけではなく、また人々が生産活動をする職場が破壊されてモノ不足になってインフレになるわけですから、人々は単に欲しいものを手に入れられなくなるだけで、否定すべきインフレであるということができます。生産資本が破壊されてなおインフレにならなかったとしたら、それは人々がモノをますます買わなくなったということであり、人々の生活はより困窮していくことになります。これは避けなければなりません。

 したがって、人々が欲するものを生産する力をいかに取り戻すか、職場が破壊されて余っている生産力をいかに効率的に生産力復興に振り分けていくかが勝負の分かれ目となります。失業者のためにワークシェアなどと甘いことを言っている場面ではありません。シェアすべき職場が破壊されて生産性が落ちるのですから、生産性過剰論者の出る幕ではありません。いかに日常生活を復興するか、そして失業者にも「日常生活」を提供できるところまで行くか。今はそこが勝負のしどころなのです。

生産力の復興=インフラの復興

 さて、現在の状況は、生産資本たるインフラが破壊されつくされている状況と言えます。太平洋側の海岸線に沿って存在していた工場や漁港は破壊されてしまいました。それによって失われた生産を何らかの方法で補填するよう、設備を整えなければなりません。また、原発事故によって福島県や北関東の生産は大きく落ち込むでしょう。特に食品関係は数年間壊滅すると予想されます。電力も足りないですから工場の操業もままなりません。この生産も補填しなければならないもののひとつです。また、津波と原発事故の被災地から避難させた人に生活と生産の場を提供しなければなりません。これも一つの課題です。これ以降は、これらの課題にいかに応えていくか考えていきます。

電力供給を増やすこと

 まず関東は電力不足が免れない状況で、夏場の電力需要の7割程度の発電能力しかないことが東電から発表されています。現在でも計画停電で工場の操業ストップが話題になっていますので、ある程度関東からは電力消費設備が出ていくものと思われます。関東から電力消費設備が出ていくと、玉突き的に他の地域でも電力不足に陥ります。しかし、原発は世論的に立てられないでしょうし、大型の発電所も建設には時間と議論が必要になります。

 このような環境ですばやく電力生産インフラを整えるには、「再生可能エネルギーのために生活を変えよう」で書いているような、再生可能エネルギーの収拾装置(発電機)や復興住宅を買わせていくことになります。風力も好適地が少ないので、事実上は家庭用の太陽光or太陽熱に、補助的な風力を加えた発電設備になるでしょう。風力は好適地でなければコスト割れしますが、この際贅沢は言っていられません。赤字覚悟で電力を消費するものと割り切って購入する必要があります。

 移転した住民に必要な水道も確保する必要があるので、恐らく多目的ダムも必要になるでしょう。脱ダムは一時封印と言うことになります。水力も再生可能エネルギーの一つと割り切って脱原発のためにある程度のコストとデメリットを引き受ける覚悟は必要になるでしょう。

職場を移設すること

 この先関東では電力不足は明白になるでしょうから、電力が必要な職場は関東の外に出ていくものと考えられます。すなわち、職場を移設していくことになります。この職場の移転をいかにスムーズに行うかも、生産力を復帰させる一つの鍵となります。

 企業にとって、事務オフィスの移転であれば現地にある空きオフィスなどを埋めていくことで解決可能であり、現に元在阪企業や外資系企業は大阪の空きオフィスに次々と入居している状況です。現代では通信設備もある程度揃っているので、書類を回すのにいちいち走り回る必要はありません。どうしても実印が必要なものだけを管理する人員を残して、ある程度他地域への移転が可能です。ちなみに個人的なお勧めは札幌です。

 しかし、工業インフラを捨てることはかなり重い決断になると思います。工場はそんなに短期間で移設できるものではなく、土地の確保も難しく、またコストの負担も大きいからです。サプライチェーンと財政の支援があれば小型の部品工場などは移設可能かもしれません。大きなサプライチェーンに組みこまれておらず消費者に1~2段階ほどでたどり着く小規模な工場の場合には、移転は容易でしょう。

 このような状況に対応するために、工業が衰退している地方、山陰や北海道などは積極的に北関東の企業を誘致してみるのも一つの手かもしれません。一極集中の解消の一つの方法となるでしょう。

住宅と水道、病院などのインフラを作ること

 職場を移設して行きますと、当然ながら働く人も付いていくことになります。このため、職場の移設先では住宅と水道インフラを整備する必要が出てきます。

 この場合、都市部に移転するか田舎に移転するかは大きな選択となると思います。ついてくる人数が多い場合には、なるべく田舎に移転したほうが土地代を安くあげることができるので正解になります。一方で、金額面での生産性の高い職種であれば、インフラが整っている都市部への移転はいい選択になるでしょう。

 ただし、水道インフラについては注意が必要で、移設にともっなって転居する人数が多い場合には、町はずれに新街区を造成するために上水・下水の管を大きく引く必要がありますし、上下水道インフラの処理量増設は一筋縄ではいかないものです。どのくらい増やすかについてはこの部分と相談になるでしょう。

 また、食料品など消耗品のサプライチェーンについては、現地資本の会社に任されることになるかとは思います。これは通常のニュータウンや工業団地開発と同じようなものです。

 即時に必要ながら最も移設が難しい施設は病院です。軽く診察する程度の施設であれば移設もひと手間で済むことでしょうが、高度医療を行う医療機関はさまざまな医療機器を設置する必要があるため、そう簡単に移設できるものではありません。この点については、かなり考慮が必要になるでしょう。

食糧供給を安定させること

 今回の災害では、食糧生産に与えたショックはかなり大きいものになるでしょう。原発事故により福島から関東一円までの広大な農地が使用不可能になりますし、沿岸の漁業もしばらく復活しないでしょう。福島、茨城、宮城の三県はいずれもコメどころであり、合わせれば国内コメ生産の1~2割ほどを占めますし、北関東では東京向けの近郊農業が盛んですが、報道の通り青菜類がダメージを受けています。このため、これを補填するためにかなり広大な農地を復活させる必要性に迫られることになるかと思われます。ただし、農地は土地関係が複雑であり、また今年復活させようと言ってもそう簡単に復活するものでもありませんから、ことはそう容易ではないと思われます。

 もっとも簡単な解決策は輸入を増やすことです。これは即効性があり効果的な手段になるでしょう。食生活が多少変わるかもしれませんが、これは我慢すべきところだと思います。

 国内で農地を復活させたいのであれば、ひとまず提案できることとしては、ならし運転として捨てる覚悟でハツカダイコンやジャガイモ栽培から始めてみてはどうだろうか、というところです。この場合、肥料や農薬の投入には気を使う必要はありません。とりあえず植えておけばいいと思います。病気にならない限りある程度勝手に育ちます。飢えるようなら食えば好し、輸入で賄えるのであれば、ハツカダイコンは飼料にでも、ジャガイモはバイオエタノールの生産にでも使えばいいことでしょう。

 減反を停止してコメを復活させる場合にはもう少し事前の準備が必要になるでしょう。今指令を出せば間に合わないことはないかと思います。

インフラ整備には古いやり方が通用する

 インフラ破壊からの復興ですので、破壊されたインフラの代替物の効率的整備を目指すと開発独裁的にも似た古い途上国的なやり方が効率的に機能する場合があります。

 震災のみであればある程度余裕を持って対応も可能でしたが、原発問題とそれによる停電が切迫した状況になっているため、比較的強引な措置も効果的であるというのが私の意見です。特に福島県近辺からの数十万人単位の人口の避難移動を行うようなことがあれば、なかば共産主義に見えるほどの強い開発独裁的な政策がかなり有効に機能すると思われます。

関東からの移転組のインフラコストは、彼らが負担するべき

 関東からの移転組が直接に消費するインフラのコストは、原則として関東からの移転組自身が負う必要があります。相手側が誘致している容量を超えて移転先にコスト負担を求めることは不可能です。なぜならば、インフラ整備コストを受け入れ側に任せていては、人口の少ない地方には関東の多すぎる人口を支えるようなことはできないからです。また、原発に依存し続けた関東の人間自身の責任もあります。ツケは東電にあとで請求するものとしても、この移転組のインフラ建設コストは自身が負担するのが筋と言うものでしょう。ただし、福島県民についてはそうではなく、折半で負担するのが良いと思われます。

 しかし、そのような方法をとれば、移転組は「そんな金はない!」と不満を訴えるでしょう。それは無理からぬことです。もし大挙して移転することになれば、私自身も(東京で最後まで仕事をする立場にならない限り)移転組になるでしょうが、やはり自分もそんなに金を払うことには不安を覚えます。それをカバーするために、いくつかの提案を付け加えます。

必要ならインフラ整備は自前で労働すること

 企業が丸ごと移転する場合には、通常の民間の企業誘致のプランにしたがって誘致するのがよいですが、今回の場合は夏の電力需要ピークまでにある程度移転したいところなので、もう少し急かして移転する必要性があるかもしれません。また、福島県から数十万人単位で一気に移転する場合には、労働需給はさらに切羽詰まることになります。そのような場合、単純に言えば、町全体が、職場も住人も一気にまとめて移転する、というプランを建てることができます。

 家はとても高いものです。移転先の誰かの作った家を買うというのであれば、それには重い費用負担が必要になります。しかし、自分で作るというのならどうでしょうか?ある程度安普請でも我慢できるのであれば、数人年の労働で家を作ることはできます。ひとまず(かなり安普請の)仮設住宅でということならば、1人年の労働も必要ないでしょう。家族そろってガンガン働くことができれば、ある程度は仮設住宅から水道の整備、通信網の敷設くらいまでは移転組が自前で行うことができるはずです。

 普段インフラ整備系の仕事をしていない人も、まず最初に自分でできる範囲でインフラ整備に参加するか、さもなければインフラ整備をしている人に供給するための物資を生産する・その生産設備を作る仕事に参加するのがよいでしょう。

しばらくは世代間同居を受け入れること

 現代社会では核家族化が進行していますが、核家族はインフラを多く要求する生活スタイルです。世代の異なる家族ごとにフルセットの家を要求しますし、料理などもそれぞれの家族が行う必要が出てきます。

 核家族を集約して多世代家族とした場合、真っ先に必要とするインフラをある程度削減することができます。これは家計的には家賃を減らすことに相当します。また、子供の世話などに関して、一定レベルの労働的援助を期待することもできます。また、最高齢者が年金受給世代である場合、インフラ復興中で少ない所得を年金である程度補うことができます。

 このように、緊急時におけるインフラ復興では、核家族を集約して多世代同居を選択することは有力な問題解決の道しるべとなります。慣れない生活を行ううえでは、ある程度心を許せる人と同居することも必要なことでしょう。そのうち同居に飽きて家族間の衝突も出てくるかとは思いますが、その時はある程度インフラが復興しているでしょう。その時に再び核家族に戻ればよいのです。

どのような社会を作りたいか、ビジョンを明白に

 インフラを復興させていくことがこれからの日本の課題です。しかし、インフラは長期に使うものですから、最終的にどのような社会を作りたいか、ある程度見据えて作業を進めていく必要があります。脱原発を目指すなら脱原発で、なにがしか、自分たちの考える社会の理想像を見据えて長期的計画を練る必要があります。

 インフラ復興は待ったなしでやらなければならない課題であり、今すぐ考えなければならないことです。そうでなければ、また戦後のスプロール現象のように、囚人のジレンマ的に生じる不利益があるでしょう。

Last modified:2011/03/26 08:21:12
Keyword(s):[震災復興]
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