為替相場の直接の経済への影響

 近頃、急速に円安に進んでおり、その相場の変動が景気に与える影響について様々に言われている。その中には輸出に有利であるといった肯定的なものもあれば、輸入物価が上がるといった否定的なものもある。そこで、円高と円安、どちらが有利か不利か、今一度考えてみよう。

円安は売るのに有利で、円高は買うのに有利である

 為替変動は、最もシンプルに考えれば輸出物価と輸入物価に影響する。輸出の場合、例えば日本円で8000円で売られているものは、1ドル80円のとき輸出価格は100ドルとなるが、1ドル100円ならば80ドルとなり、ドル建てでの価格が下落する。輸出業者は、円建てでの収入は同じであるにもかかわらず、輸出後の価格が低下して競争力を得、これにより輸出競争力が増大する。価格競争力を求めずドル建てでの価格を100ドルで固定すれば、1ドル80円の時に8000円、1ドル100円のとき10000円となり、利益が増加する。一方、100ドルの商品を輸入する場合には、1ドル80円の時には8000円だが、1ドル100円の時には10000円となり、円建てでの価格が上昇する。この関係をシンプルに整理すれば、円安は売るのに有利で買うのに不利、円高は買うのに有利で売るのに不利ということになる。

 外為相場の変動は、上記のように売りと買いに正反対の影響をもたらす。このため、売りと買いが拮抗している場合、効果が相殺される。例えば、輸出のみで稼ぎ、輸入のみで生活する人がいたとしよう。そのような人は、外為相場がいかに変わろうとも影響を受けない。輸出物価の低下は輸入物価の低下で完全に相殺され、その逆もまたしかりである。影響が出るのは売りと買いが偏っている人、すなわち「貯金を崩すだけで生活している人」と「これから稼いで貯金しようとしている人」である。貯金を崩している人、すなわち円を売って何かを買っている人にとっては円は高い方がたくさんのものと引き換えられるわけであり、円高の方がいいに決まっている。しかしこれから貯金しようとしている人、労働を売って円を稼ごうとしている人にとっては、円が高くなれば円が手に入れづらくなるわけであり、円が安い方が有利に決まっている。金融政策などで人為的な操作を行わなわない限り、通貨高は「あなた働き過ぎ、貯金し過ぎだから休んで買い物しなさい」、通貨安は「あなた働かないで借金してばかりだから稼ぎなさい」というシグナルでもある。

 為替変動の根源的な影響は、これがすべてである。あえて加えれば、これに加えて輸入品販売の専門業者には不利でとも言えるだろうか。このあたりの事情は日本は米国債を買わされている?介入の仕組みでも触れている。

輸入原材料費上昇の効果は業者間で中立であり、国内雇用はどうあれ促進される

 輸入材料の価格上昇を危惧する声の一つに、「加工貿易業者でも材料費が上がる」という意見があるが、これは明らかに誤りである。例えば、自動車を作るのに1000ドル分の鉄が必要だったとして、これを輸入したとする。これを輸出すれば、自動車の鉄の原価はやはり1000ドルである。1ドル100円なら1000ドル=10万円の鉄を買って輸出時に10万円は1000ドルに換算され、1ドル80円なら1000ドル=8万円の鉄を買って輸出時に8万円は1000ドルになるが、最終的な出入りの段階で為替の影響は完全に相殺される。したがって、加工貿易の材料費部分については為替は何の意味もなく、せいぜい取引タイミングの問題である。もしも資源購買力が低下することで加工貿易に影響が及ぶというのであれば、インドに製鉄業など成り立たないだろう。実際はそんなことはなく、通貨が安かろうが弱かろうが加工貿易は成立する。

 これは輸入品と国産品の競合でも似たようなことが言える。国産品が100ドルの材料を使うとして、1ドル100円なら材料費は10000円であり、1ドル80円なら8000円になるだろう。このとき、競合する輸入品が100ドルの材料の材料を使うとして、やはり1ドル100円なら材料費は10000円であり、1ドル80円なら8000円になるだろう。変わるのは加工賃など、別の国で行われる部分のみであり、円安なら国内加工品が価格的に有利になり、円高なら国外加工品が相対的に有利になるだけである。ただし、国内で最終消費される分に関して、「買う人に不利」となる輸入物価の影響はある。

輸出業者だけに有利なのではなく、内需でも国産品が相対的に有利になる

 円安は輸出業者だけに有利であるという声がある。しかしこれは物事の半面のみ見た議論である。円安は輸出後の現地通貨での価格低下をもたらして輸出を促進する面もあり、それは事実である。それと同時に、輸入物価が上昇するため、国内市場において輸入品に対して国産品が相対的に安くなるという効果もある。従って、円安の効果は「輸出に有利」だけではない。「国産の商品すべてに取って有利」であり、それは内需と外需とを問わない。ただし、輸入品の価格が上がることによる効果なので、当然ながら国内で買う人は相応に損をする。輸入品の価格をつり上げることによって国内生産品を有利にするので、国内に限って言えば関税で国内生産者を保護する効果に近いと言えるだろう。輸出に関してはその限りではない。

モノカルチャー経済の場合は通貨下落は怖い

 国内生産者を有利にすると言っても、輸入品を置き換える生産力が国内にないのであれば、通貨安は単に輸入物価の高騰、受け取る効用の減少につながる。この実例として、2009年ころのベネズエラを挙げよう。ベネズエラは石油の輸出に頼った国であり、リーマンショック後の原油価格低下によって輸出額が急減、貿易赤字から通貨安となった。ベネズエラでは輸入品の家電製品などの値段が高騰し、購入制限がかけられた。このとき、ベネズエラ国内で家電製品を作ることが出来るのならば、国産品が相対的に安価となり、国内雇用の増進につながっただろう。しかし現実にはそのような生産力はベネズエラにはなく、単に購買力の減少という結果を招いた。ただし、長期的に続いた場合、ベネズエラ国内に安い労働力を武器にしたメーカーが出来る可能性はないこともない。

 日本は主にエネルギー資源など自給不可能なものを輸入に頼っている。このため、一つの可能性として、単にエネルギー価格が上がるだけで、国産品での代替は不可能という可能性は考えられる。しかし日本には自給不可能なもの以外の生産力はあり、そちらの円建て輸出額は(例えば輸出後のドル建て価格を固定すれば)相応に増大するので、かなり相殺されるだろう。ベネズエラの本質的な問題は石油以外にほとんど産業がなかったということであり、輸出入品が外国製品と競合していなくても産業さえあれば為替変動の効果は生じうる。

 この場合でも「既に貯めて貯金を崩すだけで生活している人」は物価の上昇により不利になり、「これから稼ごうとしている人」には有利になるが全体として中立という関係は変わらない。また、輸入エネルギー価格が上昇した場合国産の省エネ製品が価格的に有利になり、あるいは代替エネルギーの類も多少は有利になるので、これによる置き換えも起きないことはないだろう。

Last modified:2013/01/25 20:44:01
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