電力自由化はそれなりの理由があって進んでいない

電力自由化によって安くなるとは限らない

 市場は消費者の求める良い物を安くたくさん供給するように生産を調整するための効率的なメカニズムの一つであるとされています。オープンな市場で生産者が品質と価格を競い合えば、より品質が高くより安い商品を作ることが促されます。「自由化すれば安くなる」というイメージは市場のこういった性質に依拠しているでしょう。電力が自由化されれば東電以外から買える、原発以外の電気を買える、云々のイメージもこの仕組みを想定してのものでしょう。

 しかし、電力供給の場合には自由化しても想像通りには行きません。それは、「書面の上で誰から電力を買うか決められたとしても、物理的には発電者を選べない」という問題によります。現在でもほとんどの発電所は共用の送電網に電力を供給していますが、送電網に電力を供給した時点で、どの発電所から供給された電力かは(物理的には)区別できなくなります。

 この物理的性質は、商品としての電力の品質維持インセンティブを奪います。一般の商品であれば、品質の良いものは高く売れ、悪いものはそれなりの値段になります。そのため生産者には常に品質を維持向上させ競争力を維持しようというインセンティブがあります。電力では、周波数や電圧が不安定な状態では需要側の機器に不具合が生じるため、この安定性が電力の品質であると看做されています。しかしながら周波数や電圧は送電網全体で共有されており、一つの送電網に複数の発電業者が相乗りしていたとしても、消費者側からは発電者の品質を区別できません。この状況を個々の発電業者から見ると「自分がコストを削って品質を落としても、品質が落ちた責任は他の発電会社と共有される」という状態となります。このため、個々の発電業者には電力の品質を維持するインセンティブが生まれません。このような環境では、「自分は必要なコストまでも削り、それにより生じた品質低下の尻拭いを他社にさせるのが上手い企業」が勝つことになります。これでは市場主義が上手く機能するための最低限の条件、「品質の低下は価格の低下となって自らに跳ね返る」という原則を満たせません*1

 世の中には航空業界の自由化の例を引いて電力も自由化すれば安くなるとする発言もありますが*2、航空業界では「チケットの上ではどの航空会社から買うか決められたとしても、実際に搭乗する便を選べない」というようなことはあり得ません。大前提が違うのです。電力で起きていることを航空業界に例えれば、チケットは各航空会社から買うが実際に登場する便は航空会社をシャッフルしてランダムに割り当てられる、という状態になっています。大手会社のビジネスクラスを買ったつもりが格安航空のエコノミーに乗れと言われてしまうような世界です。格安航空会社がコストカットと称して搭乗口業務に支障をきたすようになり、他の航空会社は自身が販売したチケットについては責任を持とうとコストカットした航空会社の業務までコストを負って代行する――そのような、もはや競争と呼ぶことのできない非合理な事態が電力では生じるのです。

電線を共有しない、という選択肢

 「実際には発電者を選べない」という問題は、電線を共有しているために起きる問題です。従って、送電線を分けてしまえば何の問題も置きません。何の問題も起きないので、送電線を分ける自家発電自体は昔からあります。また1995年より始まった「部分自由化」と称する制度改革により、送電線を共有する場合であっても、契約した供給側と需要側で電力の出入りを計測し品質を管理することで相乗りが可能になり、独立系発電事業者(IPP)や特定規模電気事業者(PPS)といった新規参入者が出てきています。これらの発電事業者は数も多く、2011年の電力危機の際に一致協力して電力の安定を守る下支えともなりました。

 ただし、送電線を引くコストや、電力の消費量を常時監視して品質を細やかに維持管理するためのコストを考えると、品質を守る義務を課した「自由化」は大口の消費者相手に限られているというのが現状です。これはヨーロッパの電力小売り価格で現実に観測されています(下図)*3。つまり、自由化して消費者に利益がある大口相手ではすでに自由化されており、市場システムが機能する最低限の要件を満たせない小口向けの業務では自由化による利益が得られないので自由化されていない、これが現状と言えるでしょう。

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Last modified:2015/06/01 19:24:19
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